|
カテゴリ
以前の記事
最新のコメント
検索
外部リンク
画像一覧
|
12月16日(月)
![]() 水底がよく見え水が不自然なくらい澄んでいた。 ![]() 写真を見ているだけでもううっ、寒い。 新刊句集を紹介したい。 筒井龍尾句集『夏の木』(なつのき)。 ![]() 著者の筒井龍尾(つつい・たつお)さんは、俳誌「鷹」(小川軽舟主宰)同人、平成5年の藤田湘子指導のもとで俳句をはじめ20年になる。その作品を一冊にまとめて第一句集としてこの度上梓されたのがこの『夏の木』である。小川軽舟主宰が帯文と序文を寄せている。 俳句という詩型に対する好もしい謙虚さを感じさせながらも、筒井さんの作品はこのつつましい詩型がいかに大きなロマンを宿しうるものかを示して私たちを魅了してきた。現代は過去から未来へ続く太い潮流に棹さしている。そのことを重層的に示す力強い作品群である。 小川軽舟主宰の帯の言葉である。 序文もまた、筒井龍尾という俳人の作品世界を十全に掬いあげその本質をとらえた見事なものであるとわたしは思った。 寒卵遠き鹹湖のひかりかな 銀漢や落石とほく眠りけむ 河をはる河口のひかり春の雁 新しき辞書寒林のにほひせり 海に雪呪禁の途切れざるごとく 流星や国捨つる渡河脛濡らし 眉太き一統にして薬喰 原子炉の建屋高きに蟬当たる 電線の春よはるよと野を渡る 寒林に月あがりをり鈴の如 羽蟻の夜家族の貌にテレビ照り 筒井さんの本業は大学教授であり心臓外科医である。そのことが頭にあるせいか、筒井さんは鋭いメスで多彩な材料に切り込む理知的な作家という印象を私は抱いていたが、今回あらためてその作品を読んで、原点はむしろ遥かなものを希求してやまない抒情性にあるのではないかと思うようになった。 団栗やわれら海来しものの裔 夕立や貝殻のごと都市古りぬ 団栗の句は私たち民族の来し方を自分自身の中に脈打つ血潮に重ねるようにして詠んでいる。団栗は私たちの祖先を迎えたこの土地の原初的な力を象徴するようだ。逆に夕立の句は私たちの行く末を見晴るかす。この句の都市には筒井さんの暮らす筑波研究学園都市のおもかげがある。科学技術が人類を永遠に繁栄させると信じられた時代に国策によって計画的に作られた都市もいつかコンクリートの石灰質だけが白く林立する廃墟になることを予見しているようだ。その廃墟にそっと耳を寄せれば、私たちの祖先を運んだなつかしい波の音が聞こえてくる。 「俳句という詩型がいかに大きなロマンを宿しうるものか」を示しているものとして先の二句を引用し鑑賞している。その鑑賞にうっとりとしてしまう。 わたしは今回、句集『夏の木』を拝読して著者の筒井龍尾さんは、季感の手ごたえを物質のもつ手ごたえをとおして俳句に詠んでおられる句が多いと思った。物質といっても、堅いもの、光るもの、冷たいもの、尖ったもの、無機質なものなどへの著者のフェティッシュな愛着を感じる。あるいはご本人はそれを意識しておられないのかもしれないが、そこに人知れぬ美学のようなものさえ感じてしまうのだ……。その取り合せが際立っているのだ。小川軽舟さんが挙げておられる句にもある。たとえば、「銀漢や落石とほく眠りけむ」「原子炉の建屋高きに蟬当たる」「電線の春よはるよと野を渡る」「寒林に月あがりをり鈴の如」「羽蟻の夜家族の貌にテレビ照り」など。ほかにもたくさんある。 掌に鉈の背厚し神無月 春隣万年筆に水通す 蜻蛉の交みて落つる鉄路かな 十一月手斧一丁遺さるる 川波の細かく立つや針供養 卒業やわあわあ運ぶパイプ椅子 空壜に夕空透くや夏の果 秋の蝶ジヤングルジムを抜けにけり 寒林に斧あをあをと置きにけり 極月の電飾の街渇きけり 春うれひ金管楽器遠くひかり 鉄条網国境として灼けゐたり 醬油瓶暗きに立つる野分かな 氷塊の芯の曇れる桜かな いくつか紹介してみたが、季節感とともにその物の質感がおおきく立ち上がってくるような俳句だ。季語とその物質が緊張関係のなかでこの世の手触りを呼び起こすのだ。 それが魅力である。 二十年の句作りの、ささやかな里程標を作っておこうとこの句集をまとめ、「夏の木」と名付けた。私は職に就くまで仙台に住んでいたのだが、自宅の南に大きなポプラの木が二本聳えていた。毎日それを眺めて暮らしているうちに、空の大きな二樹は、旅立ちまた帰って行くときいつもそこにある、という私の居場所の原イメージのようなものになったようだ。夏の葉のそよぎがことに見事だった思い出を、句集名に留めることにした。 「あとがき」の言葉である。「夏の木」とつけられた所以がよくわかる。「ポプラの木」は大きな木だ。著者の原風景となったとある。ほかに、 地下深きより秋風に出でにけり 言付けて秋祭より離れけり 飛行船引返すらし春の風邪 長濤のはるばる秋のこゑしたり 日向ぼこ一生少し減りたるか 塵取は箒に仕へ山眠る 素十忌や羽音ぶ厚き大鴉 シーソーの端宙にあり春の月 朝刊のはみ出すポスト夏きざす 抽斗を昏きへ戻す秋の昼 句集の装丁は和兎さん。 集名の「夏の木」をどうレイアウトするか、そこが問題だ。 いつくかのラフイメージより筒井龍尾さんが選ばれたのがこの木だった。 ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() この句集の担当は高橋千絵さん。千絵さんの好きな句は、 人よりも書物長生きハンモック 「私もこういう場面に覚えがあり、ハンモックに揺られる気持ちのいい場面が目に浮かび、とても親近感を覚えました。このようにとても親近感のわく句もあれば、目の付けどころにはっとするような句もあり、素敵な句集だと思います。また、あとがきでお書きになっている、 日常的な言葉によって形作られる景が、日常的な景とは違うあり方で、くっきりと現れるように思えることがある。詠われているものは芋の露であっ たり、箒であったり、箸であったり、とありふれたものばかりなのだが、まさにそのありふれたものにおいて鍵ががちりと開くように、世界の秘密がふ と垣間見えるような瞬間が心を躍らせる。という一文が、私は俳句はまだまだ勉強中の身なのですが、俳句の魅力がすごく伝わってきて、読み方の参考にさせて頂こうと思いました。」と千絵さん。 秋の蝶ジヤングルジムを抜けにけり わたしはこの句が好き。なによりも情景が鮮明であることだ。あえて言えば「秋蝶」の淋しさと「ジャングルジム」の淋しさがひびき合っている。 いま長嶋有さんの句集をすすめているのだが、これは活版印刷ですすめている。 うかうかしていると絶滅危惧種となりつつある活版印刷であるが、長嶋有さんの強い希望だ。 その希望に応えてくれたのが、「ファーストユニバーサルプレス First Universal Press」の渓山丈介さんである。今回の句集の装丁をなさる名久井直子さんの紹介だ。 今日はその句集の初校ゲラをもってご来社くださった。 ![]() 活版印刷の普及のためにワークショップをされたり活版印刷体験を提供したり、日々尽力をされている方である。 活版印刷は、なんとしてでも残していきたいものだ。 頑張っていただきたいと思う。
by fragie777
| 2013-12-16 21:30
|
Comments(0)
| ||||||||||||||||||||||||||||||||||||
ファン申請 |
||