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9月26日(木)
秋はこういう可愛い木の実にいろいろと会えるのが嬉しい。 新刊句集を紹介したい。 深見けん二句集『菫濃く』。ふらんす堂叢書の一環として刊行。第五句集となる。 タイトルの「菫濃く」というのがいい。口ずさんだあとに余韻を残す集名だ。 菫濃く下安松に住み旧りし 所沢市下安松に四十年余り住み、武蔵野の面影の残る周囲が、いよいよ私にとっての風土になり、そこでの句が多くなった。その中に山口青邨先生の〈菫濃く雑草園と人はいふ〉から上五を頂戴した〈菫濃く下安松に住み旧りし〉がある。句集名は、この句から「菫濃く」とした 「あとがき」にはこう書かれている。 深見けん二氏は今年91歳になられた。が、この句集を読むと年齢を感じさせない力がみなぎっている。もちろん老いを詠んだ句もあるのだが、句集を一貫して貫くものは、俳句という大いなる詩形に向き合う気迫である。その気迫は対象に向き合うときのものでもあり、自身に向き合うときのものでもあるのだ。そしてそれは深見けん二という俳人を生涯貫く気迫であるとわたしは思っている。 下萌を一気に雲のかげらせし 剪定の仰向く顔を夕日そめ わが胸を貫くほどに花吹雪 男山その頂の朴の花 鎮めたる心のゆらぎ泉湧く 万緑の一点となりわが命 使ひゐし扇をたたみ切り出せる 衣被なかなかうまく齢とれず 佇みし我に音立て冬の水 かんばせに弾け若水八方に 一塵の我一輪の白牡丹 空蝉の眼に及ぶ水明り 朝顔の一碧を咲きつらねたる 花に学び月に学びし虚子忌かな しやがむより金魚掬ひの目となりし 推敲のこの一句こそ初句会 括られし小菊の一と日一と日かな その人のかけがへのなし梅の花 よみがへる虚子の足音水温む 俳句に全身全霊で向き合う氏の姿が彷彿としてくるのだ。氏におめにかかる度に見えてくるのは、俳句という詩形の前にたたずむ一人の俳人の姿である。静かな闘志が伝わってくる。 喉もとのかげり胸まで古ひひな 「喉もとのかげり胸まで」の上五中七で、この「翳り」は作者のあるいはわたしの胸まで及んだかと思えば、それは古雛の翳りであったという、しかし、「喉もとのかげり」は余韻として読み手のわたしに及び、この「喉もとのかげり」でわたしは古雛と響き合う。そして「古雛」であることによってその「翳り」はいっそうふかぶかとした闇を思い起こさせる。古雛はいまも生きているかのようだ。 鯉の背におたまじやくしの乗りそこね 夏雲となく秋雲となく白く 秋風や大きくなりし蟻地獄 翅使ふことなく蜂の花移り かぶさりて蜂の歩ける花八手 紅梅の埃つぽくも咲きふえし 黙々と畑の夫婦つばくらめ 夏帽子鷲づかみにし走り出し 降り出して落ちし木の実もやがて濡れ 包丁の角の直角栗を剥く 餅を焼く網より下へふくれもし 影生れ落葉の上へ落葉かな 紫の赤より目立ち水中花 写生の目が効いた即物的な句も多い。写生で鍛えてきた俳人ならではの斬新な句だ。 閉ぢかけて夕日の中のいぬふぐり そら豆の花のおしやべり昼深く 水も又夕べの音に燕子花 佇みて睡蓮よりも人静か 夕翳の漂ひそめし白牡丹 額の花にも夕映のしばらくは 中までもさし込む夕日庭椿 「梅」と「桜」を多く詠まれていて心引かれる句がたくさんあるのだが、わたしはあえてそれ以外の花で好きな句を引いてみた。とくに夕暮れに詠まれた花がいい。繊細で詩情がある。夕暮れという時間は深見けん二氏にとってとりわけ思いを深くする時なのかもしれない。そして、夕べの花を詠むにもこんなにいろいろな詠み方があることをそっとわたしたちに教えてくれる。 書くほどに虚子茫洋と明易し 集中、虚子を詠んだ句は多いがとりわけこの句は、氏の虚子についての現在の実感を表しているように思える。学べば学ぶほどその輪郭がおおきくとらえどころがない、大虚子。それはまた、氏にとって俳句そのものであるかのように……。 この句集の装丁は和兎さん。 わたしの好きな句はつぎの二句。 これははずせません。 「祝 ふらんす堂新事務所」と前書きのある句。 仙川の真清水いよよ滾々と 引っ越しをした時にいただいたお祝いの一句である。こうして句集に前書きをつけて収録して貰ったたことがとても嬉しい。この句を拝読し、(そうか、仙川って、川があるんだよな、そこにわたしたちはいるんだ)って改めて思ったのだ。「仙川」が新しい地名で迫ってきたように思えたのだ。そして、わたしたちも濁ってはいけないと。 もう一句は、「楊名時太極拳 橋口澄子先生」と前書きのある句。 天と地と一つに舞はれ喜寿の春 深見先生は太極拳の師範であられる。その師が橋口澄子先生。 そしてあろうことか、不肖の弟子であるわたしの師も橋口澄子先生なのだ。 深見先生の紹介でわたしもこの素晴らしい太極拳の師に習うことができたのである。 (実はわたしも師範の試験をもうすぐ受けることになっている。さぼってばかりいたから橋口先生に叱られながら稽古にはげんでます。くくうっ) 深見先生に、「晴れて師範になりました」って報告できる日がはやく来ますように。 ああ、そうだ、 わたしの最も好きな一句は、実はこれ。 人生の輝いてゐる夏帽子 わたしの夏帽子もそうでありますように。 (今日は実は素敵なお客さまが来たのだけど、それはまた明日)
by fragie777
| 2013-09-26 19:38
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