カテゴリ
以前の記事
最新のコメント
検索
画像一覧
|
10月6日(木)
この「朝顔」、今日これから紹介する句集に響き合っているかも……。 新刊句集を紹介したい。 なかなかユニークな句集だ。 大迫弘昭句集『恋々』(れんれん)。 「大人の恋」=性愛をテーマとした句集である。 大迫弘昭(おおさこ・ひろあき)さんは、俳誌「梟」(矢島渚男主宰)に所属する俳人だ。 これは性愛をテーマとするユニークな句集である。天明期に中興俳諧が盛んになったころ、江戸座俳諧から川柳が発展し、当然の帰趨としてばれ句の世界も展開した。俳句と川柳はそうした点でも領域を分けたのである。大迫さんの俳句はあえてその境界を越えて性的な面における人間を俳句で追及しようとしている。 矢島渚男氏の序文から引用した。 この句集が「夏」の季節からはじまるというのも読み手の気持をまず解放的にさせようというもくろみか……。 夏めきてものみな釦ひとつ外す 色好みなりけり毛虫いたぶりぬ 寄せ付けぬ香水の牙城ありにけり すててこにすぐになつたる逢瀬かな 句をこうして引用するだけでもドキドキしてくる。もっと過激なのもあるのだけどそれを知りたい方はこの句集を読んでもらうのがいい。 跋文を櫂未知子さんが寄せている。 適任である。櫂さんはこの句集の魅力をこんな風に書く。 竹皮を脱ぐに手を貸すことしたり 軀だけ会つてゐたりし螢の夜 梅雨に入る白き下着のすぐ汚れ 秋の蟬こんなところにラヴホテル 春着脱ぐことは上手でありにけり これらの句に見られる性愛の匂いの濃さは、これまでの有季定型俳句にはほとんどないものだった。いや、ほとんどないというより、これほどまでに具体的な詠み方はされて来なかったといってよい。(略)さすがの私でも、もっとドライな詠み方をしてきたわけで、それでもじゅうぶん俳壇の顰蹙は買ったわけである。しかるに、この著者の伸びやかなことといったら! そして自由奔放なことといったら! と、櫂未知子さんをして言わしめた大迫弘昭さんは昭和22年生まれであるからいわゆる団塊の世代である。櫂さんは、この「自由奔放さ」を「団塊の世代ならではの生真面目さのあらわれ」であり、「詩歌の世界で初めて精神が解き放たれた」のではないか、と分析する。 確かに実際におめにかかった大迫さんはきわめて折目正しいジェントルマンであった。律儀な市民生活者ということは一目瞭然だった。その落差が面白い。矢島渚男氏も「礼節ある生真面目な男」であると書いている。 そうした人間の一途さがエロス世界の深淵を俳句表現から除外することを潔しとしなかったのではないか。 と矢島氏は書くのだが、この「人間の一途さ」というのを櫂未知子さんは「団塊の世代」が端的に背負っているものだと書く。鋭い指摘かもしれない。 大迫さんは大真面目にこの句集『恋々』を刊行されたのだ。 しかし、性愛についてたとえそうであろうともあまり「真面目さ」を強調しては野暮になってしまうというもの。作品を紹介するにかぎる。 浴衣着て違ふあなたがゐたりけり キオスクの巻ビールもて君待たな 垂れ乳と知つてをるなりあつぱつぱ 泣きに来て泣かずに帰る秋の海 せつなくて蟲といふ蟲裏返す 胸いたしさやけきものとしてげつくわう 泣き真似の上手な時雨来たりけり 君の風邪貰つてもいい貰ひに行く どこまでが枯野どこまでが背徳 年忘れいまとむかしの女来る 去年今年パンツのゴムのやや緩き 白梅はこの人と紅梅はかの人と 恋人よ春一番を吹いてやろ 夢を見る頃を過ぎてもしやぼん玉 風車優しさ不意に疎ましく 死のことも花に吹かれてしまひけり こういう句って「ああ、もういやだあ……」とか「ええっこんなことまで言っちゃうの……」とか言って「きゃあ、きゃあ」と顔をしかめたり笑ったりして読むのが楽しいんじゃないかしらん。大迫さんは恋する女性の気持に敏感なお方だなあ……、なかなかやるな……とも。ひとりでにんまりするのも気持わるくていいじゃない……。 きっと大迫さんは、読み手がそんな風に反応するのを秘かに期待してるんじゃないかってわたしは思ったりしてしまう。 担当の愛さんの好きな句は、 もう若くない掌(てのひら)の桜貝 本の装丁の色を決める時、「恋はむらさきなので…」とむらさき色を希望されたという大迫さんである。実はブックデザイナーの和兎さんはラフイメージのときにもっと過激な浮世絵風のものも用意しそちらをおすすめしたのだが、大迫さんが選ばれたのは一番おとなしい上品なものだった。 あの過激な装丁だったら、またこの句集のイメージが大幅に違っていたかもしれないと、違った形で登場したかもしれない句集に思いをはせたりもする。 句集は「春」の候で終っている。 それもまた「恋」の余韻を残す。 膝枕したるところが春の淵 わたしはこの句が好き……。 最近、朝出社するとすでに猫の「きいちゃん」がやって来ていることが多い。 まずは出勤してそれから遊びに出かけるきいちゃんだ。 午後のこと、スタッフたちが窓の外を見て騒いでいる。 きいちゃんがまたおとなりの屋根に乗っているのだ。 無事におりるまでスタッフたちも落ち着かない「お転婆きいちゃん」である。
by fragie777
| 2011-10-06 19:57
|
Comments(0)
|
ファン申請 |
||