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6月23日(木)
今日は午前中からちょっと緊張することがあり、午後は午後で出版のご相談に見えた方が大手出版社で編集者として腕をふるわれていた方だったこともあり、やっぱりすごく緊張した。 そのお方はかつてわたしが出版社に勤務していたときに、先輩編集者としてお話を伺いに行った方だった。 「むかしは、詩歌のシリーズが初版十万部、という時代もあったんですよねえ…」 と言われるのを聞いて、そんなに詩歌が売れた時代があったのかひ、どく驚いたのだが考えてみるとそれに該当する時代というのは、わたしがちょうど学生だったころだ。 そうか、 あの頃はそういう時代だったのか…… 今日はいろいろなことがあって、 (と、言ってもわたしが例のごとくなんか失敗をしたんだろうって思ったあなた、それははずれです) yamaokaは極めて勤勉実直に自分の仕事を遂行したのであるが、しかし、疲れた。 が、 頑張って新刊を紹介したい。 馬郡民子句集『木偶』(でく)。 著者の馬郡民子さんは、俳誌「蘭」に所属し、この度の句集が第一句集となる。主宰の松浦加古さんが、序文を寄せておられる。 句集名が「木偶」とあるが、この句集をひらくとわたしたちはまず「木偶」を詠んだ一連の作品にぶつかる。 木偶芝居かけて白久の日永かな 串人形花の下にて哭きにけり 茣蓙足して桟敷となせる花明り つばくらや一日のみの木偶芝居 これらの句は白久の串人形の一連である。秩父の農民が伝承してきた手作りの人形浄瑠璃である。(略)馬郡さんは白久の串人形に何度も通われたという。こけし人形にしても、串人形にしても、いずれも人形の成立の原点ともいえる素朴なものである。 このように馬郡さんの俳句の目は、好んで素朴なものに向けられる。豪華絢爛なテーマはほとんどない。いつも謙虚なまなざしによって、何気ない素材の一端を何気ない言葉でとらえ、柔らかな詩情を込めながら、対象の核心を鋭くとらえている。 わたしの故郷の秩父が出て来たのでびっくりした。農民伝承の人形浄瑠璃が白久で毎年行われているということも今知った。そんな味わい深いことをあの何もない田舎でやっていたのか……。「白久」には何回か遊びにいった。冬になると池に氷が張り、そこがスケート場になる。わたしは真っ赤のスケート靴をたずさえて友だちとスケート滑りに行ったのだった。その頃は女子はほとんど白のスケート靴だったのだが、わたしのは真っ赤。それが少々自慢で嬉しかった。(しかし、スケートはへたくそで真っ赤なスケート靴が泣いていた。) 俳句をつくる方はこういう渋い人形瑠璃もけっして見逃さない。そこがすごいっていつも思う。 序文によると、著者は少女時代に空襲に遭い、昭和二三年には大地震にも遭ったということである。それゆえか「人生に対して無常感のようなものを持っている」と著者自身が語っている。そしてこの句集の底をながれているのは「無常感」かもしれないと、松浦加古さんは語る。 蛇の衣水の匂へる方へ向く 箱庭の鶴が傾いでをりにけり 翅のみをのこす骸や雁わたし 冬木立わが一灯に帰るべし おほかたははぶく暮しに秋立てり 二階へは何をしにきし小春かな 数へ日の身をいつぽんの吊革に 古雛に海山越えし日のありし 「古雛」の句は、巻頭の「木偶」の句と響き合って、一巻を貫く哀しみの籠った美への感嘆、つまり、きびしい歴史を生き抜いてきた不死身のものたちへの讃歌となっている。 野澤節子、きくちつねこ両先生の薫陶をよく消化した上で、馬郡さん自身の無常の想い、その目で見つめる生へのいとおしみの視点には独自のものがある。そのつつましやかな詞藻が、句集の素朴な手触りとなっているのであろう。 「序文」のことばである。 段畑に穀雨の鍬の置かれたる 警官の独身寮の朝桜 灼くる街へそひしめきて歩みけり 障子貼り庭木の影の立ちあがる 来るはずの人の声して春障子 リヤカーに祭のものを積んで来し 手花火の鎌倉街道照らし出す 草取りのいきなり立ちて正午なる この句集の担当は優明美さん。 ヘリオトロープ香りて席の埋まりけり 優明美さんは、この句が好きであるということ。 「著者の馬郡さんが明るい感じの方なので、装丁がご本人によく合っていて良かったと思いました」ということである。フランス装で朱の色が効いている。嫌味のない上品な仕上がりとなった。宋朝体の活字で統一したのもいい。 いまだ途上ではありますが、このたび、句集を編むことにいたしました。平成二年より二十三年までの三百二十一句を収めました。 「あとがき」の言葉である。 「いまだ途上ではありますが」という言葉がいい。 掉尾に置かれた俳句が馬郡さんの俳句への前向きな姿勢をかたっている。 梅探るすなはち一句さぐりけり わたしは決めた。ここ数年のうちの白久の人形浄瑠璃を観てみようと……。 今日は夕飯を八時に予約している。 あんまり緊張したもんで、夕飯をつくる気力がなくなってしまったのだ。 だから外食。 もうみな待っているから、行かなくちゃ……
by fragie777
| 2011-06-23 19:52
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