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5月19日(金)
![]() (今日はぜったい薔薇巡りをしよう!) こう決めてわたしは自転車にまたがった。 仕事場にむかう今朝のことだ。 薔薇を育てて咲かせている家が多く、わたしは一軒一軒たちどまっては薔薇を鑑賞していくのだ。花びらにさわったり鼻をつっこんだりうっとりとそこに立ちすくんだり、不審人物と間違えられるかもしれないのを覚悟して……。 (ああ、もうあと一週間くらい早かったら…) どの薔薇も少し盛りを過ぎてしまった。 しかし、その哀れな退廃もまた薔薇のものだ……。 それがわたしの心の底をざらっとさせて、それもまたすごくイイんだけど。 薔薇は衰えていくことの美学が成立する惟一の花だ。 今度は夕方のこと。 ご近所の桐朋学園の方をあるいていくと、 「ラフマニノフがどうしても聴きたくってさ…」という声がするので振り向くと若者がそう言って友だちに笑いかけている。 桐朋学園にはかの有名な音楽大学もある。 ヴァイオリンなどの楽器を持った若者には毎日のように会う。 近くのお蕎麦屋さんなどでギャルの女の子が「昨夜はモーツアルトを必死で練習したんだけど……」などと話していたりするのをよく耳にする。だから今風ファッションの若者から「ラフマニノフ」なんて言葉を耳にするのはちっとも珍しくない。(やっぱ、桐朋だからねえ…) しかし、(あらっ、ラフマニノフ!)ってわたしが思わず振り向いてしまったのは、今日これから新刊句集として紹介する前北かおるさんの句集『ラフマニノフ』のことがあったからだ。 前北かおる句集『ラフマニノフ』が出来上がった。前北かおるさんは、俳誌「夏潮」(本井英主宰)に所属し、昨年句集『先つぽへ』を刊行された杉原祐之さんとは若い世代(前北さんがやや先輩の)の熱心な句会仲間である。まさに切磋琢磨するお仲間だ。それぞれの奥さまも俳句をなさっていて家族ぐるみの俳句をとおしての交流もあるらしい。また先日ご来社された中本真人さんなど慶大俳句時代からのお仲間もいて俳句をとおしての交流が盛んらしい。 前北かおるさんは「ラフマニノフ」がお好きのようだ。なんたって初めての句集名に「ラフマニノフ」と命名したくらいだから。句稿をもってご来社されたときも、できたら「ラフマニノフ」の姿を表紙に入れてほしいということだった。装丁を担当した和兎さんは、ラフマニノフの肖像のみならず、彼のピアノを弾く手まで扉に入れたのだった。 ハンディーな造本でありながら格調高い上品な仕上がりになったのではないだろうか…。 惜春の心ラフマニノフの歌 集中にある句である。命名の所以は、 ラフマニノフのメロディーに、過ぎ去ろうとする青春時代を重ねた感傷的な俳句で、自分では空前絶後の一句だと思っている。 という自負のある作品である。この句集『ラフマニノフ』は、ある意味とても個性的な句集である。 まずすべての作品に前書きがある。「その句を詠んだ日付、場所、投じた句会を示すようにし」、それを著者は「虚子の『五句集』に倣ったもの」であるとし、以下「あとがき」にその理由を述べている。 私は、一人で俳句を詠むことをあまりしない。本書に収めた俳句も、句会があったり、ともに吟行して下さる方がいたりして出来たものが大半だ。作句の現場で、すぐに他の方の俳句と自作を並べ、互選を受ける。「鉄は熱いうちに打て」と言うが、そのとおりのやり方で私の俳句は鍛えられた。槌の役をして下さった方々の力がなければ、この句集は完成しなかった。本当にありがたいことだ。一句一句に句会名を明記することで、感謝の言葉に代えさせていただいた。 序文はお父さまの前北善勝氏が父親としての愛情あふれたことばを寄せ、各章の挿画は奥さまの前北麻理子さんによるものだ。そしてこの句集を刊行しようと思ったのは長男藤次郎クンのお誕生が契機となったようである。前北かおるさんはこのようにご自身にかかわる大切な人をできるだけこの句集に参加してもらって記念すべき第一句集を刊行されたのだった。そう決めておられたようだ。 藤次郎の誕生を記念した句集の刊行を本当に嬉しく思います。 とはご序文のお父上の言葉である。あたたかなご家族のまなざしのなかでこの句集は出発したのだった。 夏蝶のかくんかくんと沈みたり 先駆けの雨夕立に呑まれけり 山茶花の咲き振りの垢抜けぬこと 尾を振りて蛙の顔をしてゐたる 露草のミッキーマウスミニーマウス サーファーを甘噛みしては春の波 夕涼の雲より淡くドビュッシー 而して星の満ちたる初月夜 ぐづぐづと咲きては零れ枇杷の花 冬桜埃の如く咲けるかな 飯桐の実るあたりはもはや空 菜の花の雪のさ中の黄なりけり 帯に寄せた本井英氏のことばは、志のある若い俳人をあたたかく育んでいこうとする師としての思いに充ちている。 歪みなく明朗に育ち、人を愛する心で満たされている著者。その因習に囚われない若さと、伝統への敬意を忘れない落ち着きとが一つの体に同居する様は見事である。俳句の場として句会・吟行会を大切にする著者の諸作は、虚子受容の新しい時代を予告していよう。 薔薇の名を旅するがごと巡るかな そう、この句。 このようにして今日のわたしの朝は始まったのだった。 スタッフの優明美(ゆめみ)さんが今日もまた書店営業に行った。 今日は吉祥寺方面と池袋の二か所である。 池袋も吉祥寺も詩歌の棚が比較的活発である。 ![]() ![]() ![]() 書店員さんに『自句自解ベスト100』についてと尋ねられ、「次は岸本尚毅さんです」と言ったところ「それは楽しみです」と言われたということだ。 7月初頭までには刊行したいと思っている。 ![]() これはおまけ。 猫のクリップ、可愛いでしょ。 俳人の西宮舞さんからいただいたもの。 スタッフの愛さんがみなに配ってくれたのだった。 わたしたちはこういう可愛いものが好き。 なんたって、 みんな、 乙女ですもの。
by fragie777
| 2011-05-19 19:51
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Comments(2)
『ラフマニノフ』出版については、お世話になりました。おかげさまで素敵な本になりました。あちこちの句会でも、まず表紙や、本自体のデザインについてほめてくださいます。ありがとうございました。
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前北かおるさま
コメントをありがとうございます。 こちらこそいい句集を刊行させていただきました。 良き師、良き家族、よき仲間にめぐまれた前北さんのこれからの俳句人生が祝福されたものでありますように。 変わらないご研鑽をお祈り申し上げております。 (yamaoka)
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