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12月15日(水)
今日はふっとブルーのセーターを着ようと思い立った。ブルーといってもトルコ石のようなあのブルーである。クリーニングさんから戻ってそのままになっているビニール袋を破いてセーターをとりだし、新品を着るように丁寧に腕をとおした。首のかたちは「とっくり」である。そこに20年以上もまえに貰ったインドみやげの銅製のネックレスをつけてみた。 下は黒の革製のパンツをはいた。(これももう10年以上のもの) (やっぱりこの組み合わせよね)とつぶやいて、スカシタ革パンをはきトルコブルーのセーターを着た女はいささかご機嫌で出社したというわけである。 トルコブルーを身につけているからといって、仕事はわたしを容赦してくれるはずもないのだが、いつもとはちょっと違う「わたし」を演出することによってわたしは少し新鮮な気持ちで仕事場に臨んだと言う訳である。 断っておくが、これはまったくのわたしの自己満足で、だいたいスタッフたちが今日わたしがトルコブルーのセーターであろうが、うぐいす色のセーターであろうが頓着しなかったのは、極めて正しいのだ。 しかしこうしてパソコンのキイをうっているわたしの腕を覆う鮮やかなブルーが、(ああ、わたしは今日はブルーのセーターを着ているんだ)って教えてくれて、そのことがなかなか楽しいのである。 生活のなかのこんなことに喜びを見出すって、わたしってほんとイジマシイ!……。 さて、新刊句集を紹介したい。 もうずっと前に刊行されても良い句集で待たれていた方もおありだったと思う。 四ッ谷龍句集『大いなる項目』である。著者の四ツ谷龍さんをずいぶん待たせてしまったのだが、四ツ谷さんはゆったりと待っていてくださった。この句集はすべて四ツ谷龍なるものが投影されている。造本、装丁、本文、すべて四ツ谷さんの頭の中にあるものを現実化したものとなった。 決して厚い句集ではなく、ページ数も60数ページ、三句組だから句数も多くない。上製本であるがスマートな軽さがある。濃いグレーに紫のラベルをはりそこに金箔を押しただけのシンプルなものである。いままで見たこともないような句集である。しかし極めて存在感がある。多くの本のなかにこの句集がまぎれていたらきっと人はこの句集に目をとめ手にとるだろう。そういう不思議な力を感じさせる一書である。瀟洒な感じではなく、重厚な出来上がりに、というのが四ツ谷龍さんの希望だったがその趣が十分にある。表紙の岩の色、そしてその手触り感が妥協を嫌う著者のピュアな素心とどこかひびき合っているようだ。 この句集の魅力をどう紹介したらいいだろうか。 ひとつは「連作」への試みであるということ。ある決まったテーマや語彙によって俳句がうねるように続いていく。それはあるときは混沌、惑乱、耽溺の表情をみせながらも極めて上質な詩精神にあやつられて詩情溢れた作品となっているのだ。そして作品の底には冷ややかで熱いものが流れているのだ。 四ツ谷龍でなくては書けない作品だ。「連作」の一部を紹介したい。 祈るなりわが骨を歯をきしませて 祈るなり百万の独楽回るなり くしゃくしゃの祈りをひらき祈るなり 祈りいるこころは糸瓜にも似たり 祈りいる我より鈍な我があり 祈るなりその祈りごと我ほろぶ 祈るなりああわれらが砂は鳴っているか このように一連の連作がありそれはまた別の連作へと展開していく。波のうねりのように、あるいはそれは音楽のようでもある。このように「連作という方法」を意識したこの度の句集ではあるが、作品一つ一つをとりあげてもそれは十分に力強い。 空に窓に緑をくばる大欅 十薬の花牡羊が跨ぎゆく 母の掌に置く空蝉の巨きさよ 草の露墓の露より大いなる 蝶一つ目で追いやがて二羽の飛ぶ 靴紐のほどけたるまま夏至の来て 菊澄めり一人にひとつ聖歌集 山猫は行ったり来たり宗鑑忌 君を待つ狐のごとく口あけて 君の手を灯台としぬ握りけり 桔梗見てその夜は妻の夢を見て 夾竹桃「自分をふるいたたせろ」という 四ツ谷さんにお目にかかったときどこで俳句をつくるのかと聞いた。わたしが思っているのとはまったく違う答えが返ってきた。 「僕は吟行で句をつくります」 井の頭公園や深大寺などはよく行かれる場所であるという。しかし大抵はひとりであるという。四ツ谷さんは孤独な詩人だ。あるいは孤独であることが好きなのかもしれない。その孤独さが作品を力強いものにしているのではないか……。ふっとわたしは思ったのだった。この句集には畏友・田中裕明の訃報にふれて詠んだ句が三句収録されている。そのうちの一句のみを紹介する。 はばたきは雪後の空にとどまりぬ 孤高、無垢にしてピュアということばがこれほど似合う俳人はほかにはいないのではないだろうか……。(四ツ谷さんは苦笑いをされるかもしれないけど…) 目次もなくあとがきもなく著者略歴もないこの句集にカラーの口絵が一枚だけある。 これは四ツ谷さんが小学生のときに描いた絵だ。 ブルーこそ血の色なれや雪ふりつぐ この句は今日のわたしのセーターのブルーに捧げましょう。 今日のねんてんの今日の一句は、後藤比奈夫句集『残日残照』より。 綿虫を一匹見たというて威張る 私はこの作者の自在な発想に魅せられてきた。その発想には淡いユーモアが漂っている。 と坪内さんは書き、最後に「いいなあ、こういう人」って結んでいる。わたしも同感です。 「増殖する歳時記」は土肥あき子さんによって、大木あまり句集『星涼』より。 枯るるとは縮むこと音たつること 香りや柔らかさを手放し、声を手にした枯れものたちに、思わず人間を重ねてしまうほどの風貌が加わる。 と土肥さん。 草木のように枯れることが出来たらいいと思う。 実はもうすこしブログを書きたいのだが、ちょっとお店が終わってしまうので今日はこれで終り。 豆乳をどうしても買いたいの。 じゃ。 ******** あのう、 今は家でこのブログを書いているのだけど、わたしったら、今日いらしてくださったお客さまのことを書くのを忘れてしまって豆乳を買いに急いだらしい。 (おかげで豆乳は買えた) 明日そのお方のことをご紹介させていただきます。 失礼をいたしました。
by fragie777
| 2010-12-15 20:30
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