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9月26日(日)
世田谷美術館の通路。 今日は日曜日。安息日である。 神はすべてのわざを終えて休まれた日だ。 だからわたしたちもこころを安らかにして天上のことに思いを致さねばならないのだ。 安息日にふさわしい新刊書を一冊紹介したい。 野上カマリング佳子著『ぷうちゃんのお祈り』である。帯に、 ぷうちゃんのお祈りーー大切な人をなくしたことのある全ての人に捧げるお話。 とある。著者はドイツにお住まいの野上カマリング佳子さん、チェロ奏者でザクセン・シンフォニー・オーケストラの首席奏者である。アメリカにお住まいの妹さんのテイラー野上祐子さんがこの本のために装画を描かれている。 『ぷうちゃんのお祈り』は病気になられたお父さまのために書かれたものである。プロローグはこんな風にはじまる。 ふるさとを遠く離れて異国に住むわたしに、ある日国際電話がかかり、母がしっかりとした口調で、「パパが重い病気になった」と言いました。 すぐに駆けつけることのできない、地球の裏側の夜の窓辺でひとり、丁度今もう朝を迎えているパパを思い、めそめそと泣きながら星を見ていると、ふと、天の川のはずれの一番暗いあたりから、ひとすじ、優しい星がつうとゆっくり、こちらに流れてきました。光のすじは、窓辺のあたりでぽむっと淡い音をたてて散ったかと思うと、指ほどの太さの、細長い燃えさしのような塊が、わたしが頰杖をついていた窓枠にぽとりと落ち、丁度線香花火が消える前に震える小さな玉のように、じいと音をたてながら、ゆっくりと燃え尽きてゆきました。 まだほの暖かいその長細い塊を、わたしがそっと両の手にのせてみると、それは、まろやかな形の万年筆になったのです。 「これは、パパに物語を書くための万年筆だ」ということが、わたしにはわかりました。 病床のパパに、ママが、優しく、ゆっくり、読み聞かせる、暖かな物語を書くための。 万年筆を、紙にそっとのせてみると、不思議なことに、何もせずとも自然にするすると動き、薄い青インクの太い文字で、紙が埋まってゆき、物語でいっぱいになったのでした。 これは、そうして生まれた物語たちです。不安や希望や心に満ちた病室で毎晩、眠りにつこうとするパパに、ママが少しずつ読み聞かせた、小さな物語たちです。 重病で死に向かう父、それを見つめる母、そのふたりのために書かれた「美しい小さな物語」。アインとアニヤとアンジェロの物語。それは遠い星の世界の話のようであるが実はこの野上さんの姉妹弟のひとりひとりのための物語なのでもある。病床の父に異国に住む娘の書いた物語を読む母。父に母にそれがどれほど励みになったことだろうか……。 著者の野上カマリング佳子さんは、この本をつくるために何度かふらんす堂のご来社くださった。装画を描かれた妹のテイラー野上祐子さんもご一緒して。そこで造本、装丁、用紙、色すべてにわたってご自身たちが納得いかれるものを選びこの一冊が出来上がったのである。 物語の中から「アニヤ」のお話のほんの一部分を紹介します。 アニヤ・コヴァルスキーには、あまり友だちがいません。こんな辺鄙な元東ドイツの海辺の村を早く出て、西側の都市で暮らすという夢を持つ、他のクラスメートたちのおしゃべりを、相づちを打ちながらただ聞いているだけでした。アニヤは本当は、いつまでもここにいて、ヤン センさんのお嫁さんになれたらどんなに素敵だろうと思うのです。でも、このことは、もちろんまだ誰にも言っていません。曲が終わるとヤンセンさんは立ち上がり、アニヤに紅茶を入れてくれます。北ドイツ風に氷砂糖を三つ入れて、かき混ぜずに飲むのがお気に入りでした。 「最初は苦いけど、だんだん甘くなるでしょ」 「最後の方はシロップみたい」 「そう。流体力学と紅茶は、関係が深いんだよ」 冗談めかして言いながらウィンクするヤンセンさんの笑顔は、日の光のように輝くので、アニヤはいつも嬉しくなります。紅茶が時の流れの甘いエキスを含んで、とろりとシロップになった頃、遅番のフリートヘルム氏がやって来ました。 「もう四時か。アニヤ、ヴィッテの村の入り口まで一緒に帰ろうか」 アニヤはうなずいて、教科書の入っているかばんを持ち上げました。 「かしてごらん、持ってあげるよ、重いでしょ」 ヤンセンさんは当然のようにアニヤのかばんを受け取り、軽そうに持ちます。 「さようなら、フリートヘルムさん」 「さようなら、お疲れさん、また明日」 今日の毎日新聞は、新刊の八田木枯句集『鏡騒』(かがみざい)より。 魂まつり雨は雨あしから上る 現実を少し離れた世界の不思議さは著者ならではのもの。年齢を重ねると共に切れ味がさらに増し、鮮やかなレトリックを楽しませる。 早々に新聞に取り上げられるとはやはり八田木枯氏の句集の力であると思う。 八田木枯句集『鏡騒』(かがみざい)は、まだこのブログでは紹介していない。このところ、まとめて本が出来上がって来てしまい、わたしの目の前に積まれた本がたくさんある。 昨日さぼったのが大きいな……。 今日は夕方から浅草にて小林苑をさんの句集『点る』の出版のお祝の会がある。担当の愛さんとともに出席する予定である。場所は浅草にある有名な「神谷バー」だ。前をとおりすぎたことはもう何べんもあるけれど入ったことはない。だからちょっと楽しみである。 そんなわけで今日はブログはちょっと早めにアップします。 出版のお祝の様子もあとから紹介したいですね。 では、また。 のちほど。 というわけでいま小林苑をさんの句集『点る』の出版をお祝いする会から戻ったところである。 沢山の方があつまってそれはにぎやかで楽しい会となった。 かの有名な「神谷バー」。ここの2階で出版記念会は行われた。 これは有名な「電気ブラン」というカクテル。 3杯のむとやられてしまうという。口にふくむと舌がビリビリする。ブランディーベースのカクテルでだから「電気ブラン」なのかな……。 やられてしまうのも悪くはないが、一杯でかろうじて我慢した、。 美味かった! これは神谷バーの神谷ワイン。白と赤があってわたしは白を飲んだのであるが、これも美味い。 あれっ、わたしはいったい何のために行ったのか……。お酒を飲むことが目的ではないぞ。 今日は小林苑をさんの出版記念会だった。 題字を書かれた書家の北村宗介さんの書のパーフォーンスがあった。 小林苑をさんはお母さまから譲られた「お召し」(分かる?)を粋に着こなして、いっそう美しかった。 小林苑をさま、今日はありがとうございました。
by fragie777
| 2010-09-26 15:03
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