3月15日
ふらんす堂の向かいのマンションに沿って木瓜の花が咲いている。可愛らしい気品に充ちて、思わず立ち止まってしまう。この赤の色の深さ、好きだなあ。このところとみに忙しく、胸の中でハツカネズミが輪を回し続けているような出口のない終わることない感覚にとらわれてしまっていて、気持ちばかりが焦ってしまう。そういうときに道のかたわらにこんな風に咲いている木瓜をみつけると、ハツカネズミもふっと休んでくれる。肩から力のぬけるひととき。
詩人の川端進さんが来社。前詩集『釣人知らず』で横浜詩人賞を受賞された方である。今日はその次の詩集原稿を持って、白い木綿で編んだ帽子をかぶり、ざっくりした素敵な模様のセーターを着ていらっしゃった。「釣は変らずになさってますか?」と尋ねると、「最近はちょっとあんまり」とのこと。鮎釣りの名人なのだ。今度の詩集は『日々是好日』フランス装で、活版印刷でということになった。活版印刷は大好き。文字の輝き、インク匂い、なんともいえない風合いがある。活版印刷の会社はどんどん減っていって、いまでは東京都内でも数えるほどしかないと思う。しかもいつまで頑張って貰えるか厳しい状況である。当然コストが割高になるのであまりおすすめできないので、活版印刷を希望される方に出会うのはとても嬉しい。(山岡喜美子)