ひぐらし

１２月５日（土）




川崎展宏氏の告別式に参列する。

　聞いてごらんまたひぐらしが鳴いてゐるよ

この句が展宏氏の最後の俳句であったと美喜子夫人が語った。

明け方にひぐらしがするどく鳴いた。
「ひぐらしが鳴いているわよ」と夫人が言うと、それを聞いた氏がしばらくして、
「ひぐらしはいいねえ…」と言う。
「ひぐらしがいいのですか」と夫人が言うと、
「いや、ひぐらしという言葉がいい…」と氏は言う。
そして「聞いてごらんまたひぐらしが鳴いてゐるよ」と俳句をつぶやいたと言う。
「聞いてごらんまたひぐらしが鳴いてるよ、ですね」と夫人が確認すると、
「いいや、鳴いてるよ、ではなく、鳴いてゐるよ、とゐをいれなくてはいけない」と強く訂正されたという。


最後の最後まで展宏先生らしいとわたしはそれを伺いながら思ったのだった。

午後よりの雨がひとしお冷たく感じられた今日一日であった。