カテゴリ
以前の記事
最新のコメント
検索
画像一覧
|
9月18日(金)
日頃から親しくさせていただいている俳人のF先生の奥さまも、嬉しいことに小栗旬のファンであると最近いただいたお手紙のなかに書かれていた。蜷川幸雄演出の「ムサシ」もご覧になったという。小栗演ずる佐々木小次郎の方が、藤原竜也演ずる宮本武蔵よりも良かったというご意見であるが、たしかにこのかぎりにおいて、というかわたしの場合は美しさにおいて、小次郎に軍配がややあったと思う。しかし、藤原竜也にはあの「身毒丸」という震えおののくような輝かしい作品があるので、もうそれだけで十分だと思う。「復活身毒丸」も良かったけれど、十代の藤原竜也が演じた「身毒丸」は最高だった。「身毒丸」はいままで観た蜷川演出の芝居のなかで一番好きなものだ。 すでに出来上がっている石尾悠山さんの新刊句集を紹介しなくてはいけない。石尾さんの句集『象徴』である。これは、前句集『帽灯』に次ぐ二番目の句集となる。句集『象徴』はなにからなにまで石尾さんによって独自に編集されている。まず、際立ってユニークなのは、過去を回想しそれを俳句によってリアルタイムであるかのごとく再現していることだ。石尾さんは大正12年生まれの今年86歳になる方だ。第2次大戦を学徒動員され、自爆訓練などの過酷な体験をする。あるいは「猛烈な台風に遭遇し、九死に一生を得るような体験」(あとがき)もされている。京大の地質学科鉱物科を卒業するや金属鉱山会社に就職し、いわゆる「地底世界で働く」ことになる。そして趣味としてはじめた山登りの日々。この句集の前半部分は俳句を実際にはじめる昭和33年までの暮らしぶりが、各章にわかれて俳句によって再現されていく。 颱風下蒲団飛ぶ見て下敷きに (学窓の日々) 蜜柑箱製図台乗す下宿部屋 (〃 ) 爆雷かかへ蹴られる兵を蟻は見つ (兵の日) 鉄拳受けめし食へぬ口火蛾舞ふ夜 (〃 ) 残雪を踏み抜き鉱山(やま)に着任す (鉱山暮しと入坑の日) 百足這ふ谿に傾く家に寝て (〃 ) わが触れし水千尺の滝と落つ (〃 ) 過去を俳句によって再現すことによってはじまるこの句集は、やがて石尾さんの目の前の日常を詠うおだやかな日々となっていく。 百態の走り根を踏む木の芽路 (低山をめざす) 巡礼のさまに薄を人すすむ (〃 ) 茄子の馬行きずりに見て起しやる (骨負ひて出奔) うかうかと黴の嵩張る古書を購ふ (幣をめぐらす) 乙女らの素足ひらひら風を踏む (肩抱き合ふ木の実) 御出やすと言はれし後の時雨かな (〃 ) 石尾悠山さんは俳誌「未来図」(鍵和田ゆう子主宰)同人。主宰の鍵和田氏が序句をよせている。 坑道深く地質学者と蝙蝠と 句集名の「象徴」には、石尾さんの俳句への思いがある。それは芭蕉の「古池や蛙飛びこむ水の音」の鑑賞をめぐっての所以によるものだ。そのことを「あとがき」で書かれている。俳句をはじめられてから50年、ご自身の自分史を俳句で再現された記念すべき句集である。 「私は本書を書くに当っても、筆を持った手がすらすら動かない程不自由になっているので、これが最後の句集となるかも知れないと危惧するものである」と「あとがき」を結んでいる。 この句集を担当した愛さんが、ふっと、「戦争下って、どうして兵隊は部下をあんなに殴るんでしょうか。それがこの句集を編集していてつらかったことです」と言った。そして「山に潜っての暮らしがずっと続いたわけですけど、石尾さんはその大変な仕事に誇りをもっておられますねえ」と愛さんは言うのだった。 句集をつくらせてもらうということは時として、その人の人生に向き合うことであり、その人がその人であるための輝やかしさにふれることでもあるのだ。 今日の「増殖する歳時記」は、大峯あきら自選句集『星雲』より。 満月に落葉を終る欅あり 鑑賞者は今井聖さん。独特だ。「やすらぎ」をキイワードに、「俳句」とは何かを考察している。すこしシニカルにすこしユーモラスに。それは、今井さん自身にとって自身の俳句がどうあるべきへの自問に繋がっていく。その真摯さが今井聖だ。
by fragie777
| 2009-09-18 19:12
|
Comments(5)
いつも楽しくブログを読ませていただいています!時々そちらに、自転車で伺っている、心です。
「身毒丸」は、たまたま初演のゲネプロを見せてもらい、 「わぁ、凄い子が出てきたなぁ」と関心しました。まさに「震えおののくような輝かしい作品」でしたね。 衝撃的でした。
0
Commented
by
fragie777 at 2009-09-19 20:31
覚えていてくださって、大変光栄です!
「ゲネプロ」は、舞台や演奏会の最終リハーサル、ということのようです。この時は、前評判が高く、チケットが完売していて、リハーサルを見せてもらっていた記憶があります。
Commented
by
中岡毅雄
at 2009-10-11 19:55
x
「身毒丸」は、私も、蜷川演出の初演を見ました。藤原竜也くんは、どんどん、上達して、良い役者になってきていると思います。彼は、語学留学をして、英語をぺらぺらになったそうですが、ハリウッド制覇を狙っているらしいですね。「ムサシ」は見たかったです!
Commented
by
fragie777 at 2009-10-11 22:30
中岡さんもご覧になってたのですか!
それは嬉しいですね。 実は藤原竜也は、わたしと同じ秩父出身なのです。 弟の近所に住んでいたらしく、小さい頃は悪がきとしての武勇伝が多々あるようです。 いい役者になってほしいですね。 いや、きっとなると思います。 (yamaoka)
|
ファン申請 |
||