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7月15日(水)
「ふらんす堂通信」週間もまさに大詰めに来ていて、昨夜などはわたしが帰ろうとしても、スタッフたちは帰らずに頑張っている。 「ご苦労さま。校正一応やっといたけれど、なんだか校正は苦手なのよ」って私が言うと、すぐにカトさんが、 「ダメですよ、編集者なんだから、校正が苦手なんて言っちゃ…」と突っ込む。 「いやあ、わたしほんとに自慢じゃないけど、笊(ざる)校なのよお。じゃあ、なにができるかって言うと、ウーム、それもなんとも言えないけど…」などと言いながら、一所懸命に仕事をするスタッフをあとにして早々に退散したのだった。 今日の新刊は、中岡毅雄さんの句集『啓示』である。「啓示」とは、なんともこちらの身がひきしまるような題名である。広辞苑によれば、「あらわし示すこと。人知を以て知ることのできない神秘を神自らが人間に対する愛の故に蔽いを除いてあらわし示すこと」とある。「聖書」の世界では、「神の啓示」ということばは聞きなれているが、中岡毅雄さんがこの「啓示」に籠めようとしている思いとは何か…、わたしは原稿をいただいたときから、その声に耳をかたむけたい、そんな気持ちで編集作業をつづけたのだった。この句集『啓示』は、中岡さんにとっては、俳人協会新人賞を受賞した『一碧』につぐ第四句集となる。しかし、前句集より十年という年月が流れている。この句集の栞を、友岡子郷、黒田杏子、小澤實、加藤治郎の各氏が書かれている。全体の構成が四つに分かれているのだが、ⅡとⅢの間には友岡氏の言葉によれば「定規で線を引いたかのような差異がある」、「直に言えば、Ⅰ・Ⅱは健康体の彼の作品、Ⅲ・Ⅳは病身の彼の作品」ということになる。前半は旅吟が多いが、Ⅲのはじめは、「手術同意書に署名し十二月」といういささかショッキングな句によってはじまる。病気によって併発した鬱という精神の病もくわえて、Ⅲの多くは生身の人間の痛みが聞こえてくる。 ⅠとⅡの作品はまさに多捨多作においては波多野爽派門の誰もがかなわなかった中岡毅雄の本領発揮の作品がならぶ。 ゆるやかにしてまぎれざる梅雨の蝶 Ⅰ 迅き雲のあとも迅き雲厩出し Ⅰ 川風のつめたかりけり雛あられ Ⅰ 海よりも空鳴りゐたる寄生虫(がうな)かな Ⅱ 波の花へと押し寄せて波の花 Ⅱ 打たれたる鮭に貼りつく落葉かな Ⅱ Ⅲは平成15年師走以降となる。 風花や転移覚悟の手術(オペ)迎ふ Ⅲ 初御空これよりの予後永かれと Ⅲ とととととととととと脈アマリリス Ⅲ ひとたびは生を彼岸に冬ざくら Ⅲ 幻聴も吾がいのちなり冬の蝶 Ⅲ このⅢ章には、ともに波多野爽波門でまなんだ畏友田中裕明への追悼の作品も収められている。石田勝彦、藤田湘子、福田甲子雄などへの追悼句も収録されている。暗欝なかなしみに支配されているようだ。 しかし、Ⅳ章からは少しずつ回復のきざしが見え始めてくる。 みちのくのひとへ告げたき返り花 日まぶし七草粥のことをふと 生きてふるへるはなびらのことごとく 水馬いのちみずみずしくあれよ 夕櫻すさぶるものを寄せつけず 栞で加藤治郎は書く。後半の句は「自在」であると。「手術同意書以前は、俳句形式にすべてが奉仕していたのだろう。そこから大きく転換したのである。句と生がダイナミックに影響し合う。そんな魅力的な世界が拓かれたのではないか」と。 中岡毅雄は、俳誌「街」(今井聖主宰)にかつてこんな風に書いている。 「病を得てから、しばしば、得体のしれない不安・絶望・恐怖に怯えるようになった。真夜中、意識不明の不安感に襲われ、抗鬱剤や眠剤を大量に呑み、副作用で、七転八倒したこともあった。」 「近辺の散策以外、一切、吟行ができなくなった。作句数は激減したが、ふしぎなことに、身近な自然は、今までにない美しさを示すようになりはじめた。」 「夕刻、散歩のひととき、自然のひかりは、病んだ魂に、しずかな癒しを与えてくれる。そんな時、俳句とは、慎ましやかに、いのちを照らし出す詩型であるように思う。」 この一集は、病める魂が自然の恩寵のひかりによって見事に回復していく…、まさにその「啓示」の一書なのである。
by fragie777
| 2009-07-15 19:07
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Comments(2)
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中岡毅雄
at 2009-07-16 19:46
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このたびは、大変、丁寧なお仕事をしていただき、ありがとうございました。細かいところまで、行き届いた編集作業をしていただきました。君嶋さんの装丁にも、満足しております。数年以上前から、「第4句集は、ふらんす堂から」と、こころひそかに決めておりましたが、やはり、山岡さんにお願いして良かったと、思っております。
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fragie777 at 2009-07-16 20:42
中岡さま。
ご丁寧なコメントをありがとうございます。 ふらんす堂をおこころにかけてくださっていたことをとても嬉しく存じます。 出来上がりに満足してくださったことを知り、ホッとしております。 いつかお目にかかれますことを楽しみにしております。 (yamaoka)
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