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6月26日(木) 菖蒲華(あやめはなさく)
今日の毎日新聞の坪内稔典さんの「季節のたより」は、現代俳句文庫『ふけとしこ句集』に収録の一句より。 「鎌の刃も菖蒲も雫してをりぬ」。 その前にたたずむ人間も雫をしたたらせているような、圧倒的なみずみずしさ。 作者のふけとしこさんとは、これまでに何回かお目にかかったことがあるのだが、いつも一分くらいの立ち話で、その話もほとんどが彼女の愛猫の「蛍」の話につきてしまう。いつも洗濯機の上にのっている長毛の老嬢猫‥。 「蛍ちゃん、元気ですかあ?」 「元気よー」って、蛍の写真を見せてもらって笑いあう。 ふけさんとは、たとえば武蔵野の雑木林のなかを一緒に歩いてみたい。わたしの知らない木の名前や草花を教えてもらいながら‥‥。 しかしながら、彼女は関西に住まわれているので、そんなことはなかなか望めないのだ。 新刊の句集が一冊出来上がってくる。三重県亀山市におすまいの藤原紅(ふじわら・こう)さんの句集『椅子を買ふ』だ。 句集名が印象的だ。ここからなにか物語りがはじまっていくような、そんな気持ちにさせる。章立てもちょっと変わっている。春夏秋冬の区切りであるが、「冬」からはじまり「夏」「秋」「春」とあえて季節のめぐりに準じていない。そしてそれぞれの季節に章題がつけられているのだが、その章題もおもしろい。「冬ー眉を引く」「夏ーしあはせのかたち」「秋ー刻つもる」「春ー螺旋階段」と、短編小説のごときである。じつは、句集を刊行させていただいたのだが、わたしたちはこの藤原さんという方のことはほとんど知らない。昭和19年生まれの女性であるということ。平成12年から俳句をはじめ「月刊ヘップバーン」に終刊まで所属しておられたということ。そして、句集の刊行についてははっきりとしたイメージをお持ちであったということ。際立って意志的な方であった。一句組で、序跋はなく、あとがきもつけない。多くはない作品と二行ほどの俳歴のみ。フランス装で装丁もきわめてシンプルに。色をつかわず墨一色で、図版も好まず文字のみ。そして、すこし細長の四六判の大きさだ。装丁の君嶋真理子さんが、いろいろと図版をあしらったものなどをラフに用意したが、すべてを却下され、当初の希望どおりの文字のみ、というものとなった。 あまりにも地味なものになってしまうのではないかと、担当の愛さんと心配したのであるが、出来上がってきて、すくなからず驚いた。 判型のタイトさといい、シンプルさといい、一句立てのすっきり感といい、大変スマートなのである。しかもフランス装なので、奥行きがある。 ああ、これはきっと藤原さんが意志した本なのだ‥。 わたしはそう思った。 「紙魚喰ひの阿部一族を捨てにけり」「古文書の余白に水仙のかをり」「短日のわけても重き新刊書」「新刊のカヴァーを捨てる風邪心地」「辞書ひいて辞書を枕に鳥の恋」などなど、本を身近にしている俳句が多いのが目につく。 「ひとり居の夜長のための椅子を買ふ」 句集名ともなった作品だ。 ご自身の句集を手にし、出来上がりに満足してその椅子にゆったりと腰かけている著者の姿が彷彿としてくる。 「セーターの袖口ゆるみ荷風の忌」。 句集の末尾におかれたこの句は、十分にこの作者を語っている。
by fragie777
| 2008-06-26 20:53
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