11月26日(月)
上野動物園の白熊は、たいへん彼らにはもうしわけないのであるが、わたしとわたしの身の回りにいる人間たちにとって、およそ切ない存在であった。「ちょっと、壊れてしまったんじゃない…」「どうしたんだろう…」などと上野動物園にいくたびに、心が傷んだ。というのは、いつもあの大きな身体をゆすりながら、てっぺんの岩の上を右から左に、左から右へ一定のリズムで往復するのみでそれ以外の行動をするのをこれまで見たことがなかったのだ。いつ行ってもである。それは恐ろしいほど単調なうごきのくりかえしで、ずっとみているこちら側がおかしくなって来るほどである。北極で雄壮に獲物を襲ってくらしているはずの白熊がおりのなかにとじこめられて、狂ってしまった…。そんなふうにこちら側が追いつめられてくるような動きなのだ。それでも、白熊のことが気になって、上野にいけば必ず彼らを見なくてはいられない。そして息がつまるような絶望的な思いにとらえられる。しかし、昨日は違った。てっぺんの岩からふっとおもむろに降りてきたのだ。一頭が降りればまた一頭も。「わああ、お、降りたよ」そして水を飲みだした。
一頭がたちあがり、手をあげた…ええっ、手をあげた先には食事をあたえる人がバケツをもって観衆のなかにまじっていた。「ああ、ご飯なのね!」このあと水のなかに投げ入れられた食事を楽しそうに食べる彼らをみて、わたしはやっと安心したのだった。しかし、この場面に行きあわなかったらやはり重くれたこころで、白熊のもとを立去ったかと思うと、食事場面にいきあわせたことは大変ラッキーだった。白熊にとっては大きなお世話な、わたしたちの勝手な心配がひとつ消えたということになる。
今日は新刊句集の代送がふたつ。俳誌「花暦」(館岡沙緻主宰)の同人、春川園子さんの第一句集『梅日和』。書道をなさる春川さんご本人が題字を書かれ、春らしい華やかな本が出来上がった。館岡沙緻さんが序文を寄せられている。「日当りのよい木ばかりに冬の鳥」。俳誌「狩」(鷹羽狩行主宰)同人の横田義男さんの句集『城山』も第一句集である。著者は「鵜飼」で有名な長良川のちかくにお住まいである。鷹羽狩行さんが「澄むことに徹するはよし長良川」という序句を、長田等さんが跋文を寄せておられる。「目ばかりが大きくなりて日焼の子」。
今日の坪内稔典さんによる
「船団」ホームページ「今日の一句」は、児玉硝子さんの句集『青葉同心』より。2004年にふらんす堂から刊行された句集である。大阪弁をたくみにつかって、たとえば「へらへらと雨にも負けとこクリスマス」なんて、大阪女のすごさがあってわたしはコワーイなあ。