6月13日(水)
仕事の打ち合わせがあり、装幀家の菊地信義氏にあうために銀座におもむく。菊地さんにおめにかかるのは、前回、奥坂まやさんの句集『縄文』をおつくりしたときに、奥坂さんといっしょにお目にかかって以来であるから、もうかれこれ2年くらい経つのかもしれない。歌舞伎座の裏、マガジンハウスのすぐそばに事務所をもっておられる菊地さんはいつもそのすぐそばの「樹の花」という喫茶店で人に会われる、だからわたしもそこへ。もう何度になるかしら、ここにくるのは。昔ながらのなつかしい匂いのする喫茶店で2階にあるその店への階段も木でできていて、ガラス張りのドアーのむこうには、サングラスをかけたジョン・レノンがこちらを見ている。このドアーの重さ、室内の暗さ、木と珈琲のいりまじったような匂い、なにもかもなつかしい…ふっと時間がタイムスリップしたみたい…。菊地さんはその装幀の仕事とおなじように打ち合わせもシンプルで重厚で迫力がある、一気に本質にせまるような気迫があり、わたしも少し緊張しながら一言も聞き漏らすまいという姿勢でのぞむ。(ちょっとカッコいいでしょ…。わたしだってそういう時もある…)
打ち合わせをおえて、ホッとしながら東銀座の駅にむかう途中、銀座は小さな店がどれも洒落ていて、あっちこっちとそれらを眺めながら歩くのも楽しい。歌舞伎座の裏にさしかかったとき、歌舞伎座で働く裏方さんがひとり階段にこしかけてぼおっと休んでいた。ああ…いいなあ…、だまって通り過ぎたのであるが、急遽ひきかえし「写真にとらせて下さい」とお願いしてとった一枚である。仕事からときはなたれて風にこころを遊ばせている、そんな風景がとてもなごんだのだった。