6月2日(土)
写真はふらんす堂刊行の『癒しの一句』。2000年の12月に刊行されている。1999年の1月から12月にわたって、ふらんす堂のホームページで毎日更新というかたちで連載されたものである。わたしは今年に入って、この本を毎朝開いて読むのが日課になっている。著書は田中裕明さんと森賀まりさんの共著でありこのお二人はご夫婦であった。あったということは多くの方が知っておられるように、田中裕明さんは2004年の12月に白血病のために亡くなっている。ふらんす堂のホームページをたちあげてから何年か後に、日替わりで俳句を紹介するコーナーを持ちたいと思っていた。そこで思い当たったのがこの「癒しの一句」。当時「癒し」という言葉がはやっていて、あっちこっちで「癒しブーム」なるものがあって、そいういうことから言えば機に乗じた安手のテーマのように思われたかもしれないが、わたし自身が日々に俳句に出会いたいと思っていたこと、そして俳句の力は人のこころを癒すことができると思ったことで、ぜひとも「癒しの一句」のタイトルでホームページの連載をしたいと思ったのだった。誰にお願いしようかと思ったときに、田中裕明さんの顔がすぐに思い浮かんだ。ただし、会社づとめの激務の日々、毎日の更新は無理ではないかと思ったときに、夫人でやはり俳人である森賀まりさんの顔が浮かび、お二人で交替で書いていただこうと決めた。そうしてお願いしたところ快諾。最初の試みであったので、一句に対する解説もかなり長く、いまから思えばさぞや大変だったのではないかと思う。田中さんは連載の途中でアメリカで研究発表をするために渡米などということもあり、アメリカからファックスで原稿をいただいたこともある。そのファックスには、アメリカのホテルのプールで泳ぎましたとコメントがあったりして…。わたしにはまだその記憶は新しい…。この本を作っているときはなんだか夢中でゆっくり味わうこともできなかったが、数年経って、いまこうして朝の時間にゆっくりと俳句と解説を読むと、これがとてもいいのである。取り上げられている俳句の範囲もひろく、なによりもお二人の解説がていねいで、わたしの中を静かな水が流れていくような思いがするのだ。いまは亡き田中さんのことを思い浮かべながら、ああ、こんなにていねいに解説を書いてくださったんだ…、まりさんも子育て真っ最中であったはずなのに…。言葉ひとつひとつが時間をかけてそこに置かれてあり、そのことがわたしの心にゆっくりと伝わってきて、まさに癒されるのである…。「癒しの一句」とは我ながらなんと良いタイトルをつけたんだろう…、と不思議な思いにかられる。ふらんす堂では残念ながらいまは品切れとなってしまっているが、なんとか多くの人にこの本を知ってもらいたい、どうしたらよいだろうか…、そんな思いでいた矢先、俳人で聖路加国際病院で医師をしておられる細谷亮々氏が、「暮らしの手帖」でこの『癒しの一句」をご自身の愛読書として紹介してくださったのである。いま発売の「暮らしの手帖」である。是非一読をおすすめしたい。「癒しの一句」というタイトルについては、俳人の和田悟朗氏が、「ぼくは『癒し』という言葉は好きでないが、田中さんたちのこの『癒しの一句』は田中さんという人によく合っている」と何かに書かれているのを読んで、ほっとした思いがある。少し前に森賀まりさんにメールで「毎日いま『癒しの一句』を読んでます。あのお忙しい時期にこれほどていねいに書いてくださったということは、さぞ大変だったのでは…」と書いたところすぐにお返事が来てそこには一言「本当に大変でした」と…。