5月22日(火)
写真は黄藤。谷保の民家に咲いていたもの。
今日は暑い一日となる。窓を開ければすずしい風が入ってくるのだが、あいにくお隣の民家が改修工事をはじめてしまい、窓を開けていると土ぼこりがまいこんできて、みな喉がいたいと言いだした。わたしも目にゴミがはいったり、喉がなんだかいがらっぽい。今日はデザイナーの君嶋真理子さんが仕事にやってきたり、俳誌「朝」に所属している加瀬美代子さんとそのご令嬢で、ふらんす堂から一昨年『春風の量』という句集を出版された広渡詩乃さんがお母さまと一緒に来社された。いまおすすめしている加瀬さんの句集の装丁の打ち合わせにみえられたのである。人口密度のきわめて高くなったふらんす堂は人のエネルギイの熱量でムンムンしていて、川口など頭が朦朧としてしまっているらしい。そんなわけでクーラーを思い切ってつけた。今年の夏の暑さがいまから思いやられる。ヤレヤレ…。
たったいまあるテレビ番組を見終えたところである。「プロフエッショナル ベストセラーの表紙を生む職人魂」と題して、いま一番ヴィヴィッドに活躍しているブックデザイナー鈴木成一を取材したドキュメントである。鈴木成一の装丁した本の多くは書店の店頭をかざっていて、わたしたちはそれが鈴木成一デザインのものとは知らなくても、よく見知っている本が多い。テレビカメラがとらえた鈴木の装丁した本は「ああ、これも! それもそうだったのか!」と驚くほど多岐にわたりそうしてよく知られ話題になった本が多い。デザイン業界でも鈴木成一のファンがいるほどである。鈴木が活躍する舞台は営業出版の業界であって、つまりは売る本をつくるため市場である。しかしふらんす堂の本の多くは、売るためよりも、一人の表現者の期待に応えるために本をつくる。その大きな意識の違いがあるということをこころに置きながらわたしは、この番組をみていたのであるが、鈴木成一へのインタビューを聞きながら新鮮におどろいたことがひとつある。それは「あなたはなんのためにブックデザインをするか」という問いに対して、「本を売るためでもなく、自分の表現にこだわるためでもなく」(ではなんだというのか!)とわたしは思った。「期待に応えるため」だと鈴木は言う。(!!!!)そうだとしたら、ふらんす堂の本作りとなんら変わらないではないか、その期待する側の資質の違いはあるにしても、基本的には「自分のためのいい本を作って欲しい」という期待に応えるために装丁するのである。たとえばそれが編集者の期待にとか、あるいは出版社の売れる本をつくって欲しいという期待ということも考えられるが、今回の鈴木への取材に関する限り編集者や版元は影はうすく、いつも著者と装丁者との関係、つまり依頼し期待する著者とそれを受け装丁するブックデザイナーという関係のなかで取材はすすんでいったのである。これはそういう形を鈴木成一がのぞんだのであるかもしれないが、そのシンプルな関係は、ふらんす堂の本作りにもつながっていくものであってわたしにはとても面白く示唆的であった。この番組をわたしに教えてくれたブックデザイナーの君嶋さんはどんなふうに見ていたのか、今度会ったときに聞いてみたいと思っている。