3月11日(日)
出かけようと思って玄関のドアーをあけると目のまえになにか明るいものが飛び込んできた。足元のところに「ひゅうがみずき」の花が咲いている。いつものこのかわいらしい花を見ると、ああ、春がきてあたたかくなるんだって思う黄色の花なのであるが、今年はもう十分にあたたかさを堪能してしまっていて、ああ、やっとこの花のさく季節になったのかと、ほんとうにいつも勝手がちがう。こんな感じで舞台装置が十全ではないところに気のはやい春の女神がやってきてしまい、わたしたち人間たちもすこしあわてているといった今日この頃かもしれない。
午後は学士会館へ。神保町の地下鉄の駅をあがると目の前にあって、すこし高いところにある入り口にも親切にエスカレータがついている。わたしはこのエスカレーターがちょっと苦手でなんというかあまり上手に乗れない。いつも乗る前に緊張してひと呼吸おいてしまう。この学士会館のエスカレーターなんてとってもゆっくりのスピードで、多分高齢者にも乗りやすい速度になっているんだと思うのであるが、そこでもけつまずいてしまい、カッコ悪いったらない。乗り損ねてあたりを見回したら誰も見ていないのであわてて態勢をたてなおし何事もなかったようにすまして入り口までたどりついた。今日はここで、2時に俳誌「朝」の同人の加瀬美代子さんにお会いして句稿をいただくことになっている。一昨年、『春風の量』という句集を刊行されたお嬢さんの広渡詩乃さんもご一緒である。おふたりはすでにみえておられそこで約2時間ほど打ち合わせをして学士会館をあとにするころには雨はすでに止んでいた。広渡さんは広告業界で働くバリバリのキャリアウーマンである。電通に勤めておられたがいまは独立されていて、4月からはある大学で講義も受け持たれるという。「俳句に費やす時間がすくなくなって…」とすこし無念そうである。
広告業界で働き、子供を育て、大学で教鞭もふるい、俳句も頑張る、考えただけでもくらくらと目がまわりそうである。「どうぞお身体だけは大切になさってね…」とわたしは思わずせつせつと言ってしまったのである。