11月16日(木)
今日もパソコンにはりついて仕事。あっちのパソコン、こっちのパソコンって2台を自分の机の上に、もう1台を川口の机を占領して、季語別句集のデータづくりにはげむ。しかし、今日の三分の二は呪われた時間だった。なにをしてもうまく行かない。そういう時ってあるもの。今朝は歩いて出社しようと思ったのであるが、ぐずぐずしていて、結局自転車になった。そんな気持ちが響いたのか、ちぐはぐな感じがぬぐいされない。お客さまの多い日であったが、対応はほとんど中井愛にまかせて、わたしはパソコンとにらめっこ。もうそうなると人の言葉が聞えてこない。ほとんど魂はパソコンのなかにあずけたまま、「よくいらっしゃいました」「ありがとうございました」などなど、魂のない虚ろなわたしが挨拶している。顔は満面の笑みととびきりのご愛嬌なのであるが、魂はね、ウインドウズXP氏につかまれたまま。でも、わたしがいささか、(いや大変)抜けていても、スタッフがみんなしっかりしているからふらんす堂は大丈夫なのである。一句集を下版にしたのであるが、いつもながら抜けの多いわたし担当のゲラを渡邊真紀がしっかりチェックして、今回も落ち度がないようにしてくれる。句集をつくりたいとお見えになられたお客さまには中井愛が肌理細やかに対応してくれているから大丈夫。取次店への品出しは川口と加藤泰子の夜叉課グループが、書庫と仕事場を行ったり来たりして頑張ってくれる。えーと、その間のわたしはっていうと、パソコンに向かって「えええっ、どうしてうまくいかないのよお!」とか「なんでえ、信じられない」とか「ああ、もうどうしよう」とかひたすら叫んでいるのである。
君嶋真理子さん来社。来るなり「お腹すいたあ」と言い、今日は装丁をどんどんやって「あんかけ焼きそば」を食べて帰るのだと張りきっている。(相変わらず元気いいなあ、君嶋さん)「いやあ、最近寒くなりましたねえ、寒くなったら腰と首を冷しちゃ駄目なんだそうです」「あらそうなの」「そうなんですよ。だから私腹巻きをしはじめました」「まあ寝るときはいいかもね」「いやあ、今もしてるんですよ、ほらっ」とおもむろにお腹を出して白い腹巻きを見せてくれた。まったくもう真理子さんは!「君嶋さん、いいマダムがそんなことしたら、ブログに書いちゃうよ。」と私が言うと「アハハハハッ」と豪快に笑う君嶋さんなのであった。どうも女だけの職場というのは、遠慮がなくなってシックな趣に欠ける傾向にあるようだ。イケナイ、イケナイ。
しかし、思わず腹巻きを見せられたときは、わたしもパソコンの世界からシャバにもどってびっくりするやらあきれるやら、でもやっぱりそんな君嶋さん、好きだわ……。
大切なことがあと廻しになってしまった。今日は田代青波さんの句集『試着室』ができあがってくる。ご主人の青山氏のこころづくしの意匠を活かした美しい本となる。青山氏曰く「わたしたちには子供がおりませんので、この句集はわたしたちの娘でして、その娘を嫁にやるという気持ちでお願いしました」。そのお気持ちを受けて花布は金色にしたのであるが、それを喜んでくださったのが嬉しい。
今日の読売新聞「四季」に長谷川櫂氏が、秋山夢さんの句集『水茎』から作品をとりあげている。「裸木をつつく一羽の響きけり」「読者の心の中に広大な冬の森が現われる」と。