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10月17日(火) 旧暦8月28日
藍の花。 藍染めの原料となる花。 今日は夕方より京王プラザにて、上田日差子主宰「らんぶる」の20周年のお祝いの会がある。 スタッフのPさんが出席。 明日のブログでお祝いの会の模様を紹介させていただく。 先日ふらっといらした年配の男性がおずおずとふらんす堂のドアーを開けた。 「どちらさまでしょうか」 「ええっと、こちらは印刷屋さんですか。僕の書いたものを印刷して貰おうと思って。」 「出版社ですけど、本にするご相談ですか?」 「ええ、そうなんですけど」 「ともかくも、どうぞ中にお入りください。」 ということでお話を伺うと、漢詩をならっておられて直筆で書きためたものを一冊になさりたいということ。仙川によく来るのでこの辺でそういうことをやってくれるところがないかと捜していたところ、娘さんがインターネットで「ふらんす堂」を見つけてくれて立ち寄ったということ。 その男性はぐるっとふらんす堂の書棚を見回されて、 「なんだか場違いなところに来てしまったようです」とおっしゃる。 「どんなものを本になさりたいのですか」と伺うと、 遠慮がちに出されたのがこれ。 和紙の束で、「漢詩と絵画三十撰」とある。 「鶏肋の詩・画」とある。 頁をひらくと、 こんなふうに筆で漢詩と絵が画面いっぱいに描かれている。 すべてが手描き。 しかも丹念に書かれたもの。 「これは凄いですね。」思わず言ってしまった。 その惜しまぬ労力と一途さ。 「今年の2月頃から一気に書いたものなんです。これ一部しかないので本にして歳とってに動けなくなったらそれを見て楽しもうと思って」と恥ずかしそうにおっしゃる。 「でも、来るところを間違えました。印刷屋さんだと思ってきたのですが、こうして本を見るとちょっと違うかな」と。 うかがえば20冊から30冊くらいでいいということ。 確かにふらんす堂のこれまでの仕事とはすこし異なるものであるが、わたしは目の前の手書きでかかれた漢詩とその絵に感動していたのである。 それは並大抵のエネルギーではない。素晴らしい集中力である。 なんとか力になりたい。 「いいでしょう、特別にやっちゃいましょう」ということで、この一冊の直筆のものがどういう印刷物になるかも興味がわき、レイアウトなどスタッフの文己さんの勉強にもなると思い、お引き受けしたのだった。 「ただし、ふらんす堂の刊行物ではなく私家版として」ということで。 その方はちょっと驚いたようにでも嬉しそうにして原稿を置いていかれたのだった。 さっそく日本ハイコムの窪田さんに相談をして、いちばん良いやり方などを聞きながら、とりかかる。 著者のお名前は佐藤貢悟(さとう・こうご)さん。 毎週、奥さまのお墓詣りにふらんす堂ちかくのお寺に見えるということで、ときどき立ち寄っていただきレイアウトなどを確認して貰ったりして、制作は順調にすすんだのだった。 10月の奥さまのご命日までにはつくって欲しいということ。 文己さんは頑張った。 そしてご命日に十分間に合うように出来上がった。 こんな風に。 B五判変型の中綴じ本。 48頁。 わたしは出来上がりを手にとったとき、おもわず「いい本になったわあ!」と叫んでしまったほどである。 すべて手描きであるということがこうして印刷部になってもやはり素晴らしいのである。 そこに費やされた時間が凝縮している。 目次。 本文。 このようにすべて手描きである。 ルビまでついている。 手書きでないところはひとつもない。 ご本人が「跋」の末尾に、このように書かれている。 鶏肋(けいろく)ー―あばら骨 価値は少ないが捨て難い 「鶏肋」味わいのある言葉である。 「出来上がりました」と佐藤貢悟さんに御連絡をすると、さっそくにご来社くださった。 その時に「この本をもう少し理解して貰うために」と「要約」を手書きで書いて持って来られたのだった。 ご入り用の冊数は30冊。 漢詩のお仲間や絵のお仲間に差し上げるという。 とても喜んでくださったのがわたしたちにとっても嬉しかった。 出来上がった一冊を手にした佐藤貢悟さん。 「これから女房の墓に行ってお供えしてきます」とおっしゃってお帰りになられたのだった。 漢詩を一篇のみ紹介したい。 皇居散策偶成 こうきょさんさくのぐうせい 晩秋霽日繞皇城 ばんしゅうのせいじつこうじょうをめぐる 衆庶閑人遊屐軽 しゅうしょのかんじんゆうげきかろやかなり 白鳥不知門外事 はくちょうはしらずもんがいのこと 愁思紅葉過看桜 しゅうしこうようせしさくらをみてすぎる 「要約」には、「雨上りお堀を眺め桜田門での事変を回想しての遊歩」とある。 思いもかけないご縁によってお作りさせていただいた一冊である。 この本のことも、わたしの心のノートにそっと記しておこう。
by fragie777
| 2017-10-17 20:35
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みすな
at 2017-10-18 15:32
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はじめましてyamaokaさま
毎朝、朝食を食べながらブログを読むのを日課にしています。 いつかコメントしたいと思いつつ、何年もたってしまいました。 この漢詩の印刷を引き受けた話(手書きで素晴らしいですね)を読み やっぱりyamaokaさんってかっこいい!と思い、伝えたくて書いています。 短歌の勉強を始めた頃、通信講座の添削講師の佐藤南壬子さんを検索したら ふらんす堂さんに行き着きました。 ブログで紹介してくださる俳句の数々、とても勉強になり、 短歌より、好きな俳句の方が多くなって困ってしまっています。 ニューカレドニアに住んでいるのですが いつかふらんす堂さんで本を作ってもらうのを夢見ています。
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fragie777 at 2017-10-18 19:31
みすなさま
はじめまして。コメントありがとうございます! とても嬉しいです。 ニューカレドニアにお住まいの方が見てくださってるなんて。感激です。何よりもこうしてコメントをいただけると、励まされます。 佐藤南壬子さん、懐かしい。亡くなられましたが、ときどき思い出します。思い出すときの佐藤南壬子さんはわたしのなかでまだ生き生きとされています。 是非にご本をつくるご縁をいただければと思っております。 お会いできたらなおさら嬉しい。 (yamaoka)
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