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5月8日(月) 旧暦4月13日
5月の矢川湿原はまさにみどりの世界だった。 わたしの身体までみどりに染まるかと思われるほど。。。 さっそくに新刊紹介をしたい。 著者の鈴木征子(すずき・せいこ)さんは、栃木県生まれ、埼玉県所沢市在住。俳歴については、 「俳句を始めていつの間にか三十余年が経ちました。公民館の他、職場の職員文化会の「俳句大会」に応募したのが始まりで「都庁俳句」の仲間と吟行句会を続けてきました。さらに有馬朗人主宰の「天為俳句会」、深見けん二主宰の「花鳥来」、そして「雨蛙俳句会」に所属し、今日に至っております。その間、有馬朗人、深見けん二両先生の教えを受け、また、多くの句友の皆様のご指導、ご厚誼を頂き俳句を学び楽しんできました。」 と「あとがき」にある。 本句集は平成10年(1998)から平成27年(2015)までの作品を収録した第一句集である。序文を深見けん二主宰が寄せられている。句集刊行を思い立たれた経緯は、やはり「あとがき」から引用したい。 「ところが三年前、夫が体調を崩し、それまではずっと続くと思っていた平凡な日常、当たり前のように出かけていた吟行すら、ままならない日々となりました。絶望の日々の中で、その春から始めた句集の纏めは進まないままになっておりました。この春で術後三年になる夫は、皆様のご厚意に支えられながら、少しずつ健康を取り戻しつつあります。また、深見けん二先生も龍子奥様も健康を回復され、お元気である幸せを胸に、このたび句集の発行を思い起こしました。深見けん二先生にはまことにお忙しい中、ご選句とご序文をお願い致しました。日頃のご指導と併せて、心より感謝申し上げます。」 句集名の朝桜は、 癒えて来し夫と見上ぐる朝桜 により、ご主人である鈴木すぐる氏への思いの籠もった一句である。 序を寄せられた深見けん二主宰は、編年で編まれた本句集の作品を「武蔵野の俳句」「旅吟」「ご主人を中心とした家族詠」の三つに大きくわけて丁寧に紹介されている。そして、最近の作品から数句を選び鑑賞をほどこされている。そのうちのいくつかを紹介したい。 鮎釣の所を変へて深みへと 囮鮎を使った鮎釣が、川の中央の深いところへ足場を変える時の描写である。作られて見ると何の技巧もないようであるが、中七から下五への言葉の使い方は、句作を重ねて熟練して得られる技(わざ)なのである。 サングラス掛けて鏡を覗き込む サングラスを掛けている時、たまたま鏡があって覗き込んだのかも知れない。併しこんな句が出来て、それが一つの句となると、俳諧味となり、又味い方によっては、知らない自分との無気味な出会いとも受けとれる。 枯蓮水の中まで日の当り 蓮がすっかり枯れて、水面が広がっている。そこに日が当っている、それも「中まで」。下五「日の差せる」でなく、「日の当り」によって、枯蓮が詠まれたと云ってよい。 句集を思い立たれた、平成二十四年のその冬、御主人が病まれ、私も家内が入院した。それから三年、こうして征子さんの句集がまとまり、その序文を書かせていたゞけ、私にも感慨深い。 「雨蛙」主宰の御主人を支え、又、「所沢の民話の語り部」として自由に、そして、心を深めた俳句を作り続けられることを、心からお祈りする次第である。 本句集の担当はPさん。 春深し風なき街に飛行船 背高き草より枯れて風に鳴る 巣立鳥胸ふつくらと白きこと はづみつつ草流れ来る秋出水 しわしわと波に伸びけり今日の月 朝日子や露を湛へし橅林 寒雀影もろともに零れけり 小正月湯気立つものの並べられ 里山の光を集め梅開く 髪洗ふ一日のこころ洗ふごと Pさんの好きな句を紹介した。 人待つと人には言ひて月を待つ この一句、わたしは好きである。この著者の心根が「月」という季題の情趣にかなっている。「待たれいる月」は、著者の今のみならず、古のむかしより多くの人に待たれて来た。その月待つ人々のこれまでの時間の端に連なろうというのである。幾星霜にわたって繰り返されてきた月待つ人の心を受け継ぎながら、しんとした心で月を待つ。はるかなる時間に身を浸しながらである。それはまるでは時空のはての恋人を待つかのように。だから秘やかになされなくてはならないのである。いいなあ。わたしも「約束した人をまっているの」などと言って実は「月を待つ」っていると言ってみたいがまず無理。この逆は多いにあり得るが、そうではないのだ。あくせくと目先の実利に走ってしまう、たとえばyamaokaのような人間とは対極におられる方であると思う。風雅の心を持った鈴木征子さんである。 病を得て、この世に変わらないものなどない、かけがえのない「今の光」を言いとめることが、自分にできることと思い、客観写生に加え、ひたすら多作を心がけて参りました。拙い句ではありますが、ご笑覧頂ければ幸いです。 夫であると同時に師であり句友でもあるすぐると、「むかし話」は子供が正しく育ってほしいという地域ぐるみの願い、「民話」は災害をのりきる祖先の知恵を伝える「遺産」であると思い至り俳句とともに「所沢の民話の語り部」として続けていければと願っております。 ふたたび「あとがき」より。 本句集の装釘は君嶋真理子さん。 句集名は『朝桜』 君嶋さんは、これまで「桜」のタイトルがつく句集を何冊装釘してきただろうか。三〇冊以上だと思う。 しかし、さすがの君嶋さんだ。 品のよいフランス装が出来上がった。 よく見ると綺羅が漉かれている。 桜色がやさしい表情をあたえている。 ご主人の鈴木すぐる氏は2011年にふらんす堂より第2句集『名草の芽』を上梓されている。やはりフランス装である。征子夫人が句集の原稿をもってご来社されたとき一緒いご来社され、お元気になられたお姿にお目かかることができた。ご主人とおなじフランス装で、というのが征子夫人のお気持ちだったのだ。 お二人でこの度の上梓を喜ばれていることと思う。 髪洗ふ一日のこころ洗ふごと Pさんもあげていた句である。わたしも好きな一句である。 「こころを洗ふ」というのが、いいなあ。こころは実際には洗えないけど、髪を丁寧に洗うことによって、今日一日の汚れとともに、嫌なことや不快なことあるいは心配事などが洗い流されて行く、髪を洗い終えて、さっぱりとした気持のよいカタルシスに身を委ねている著者の姿もやがて見えてくる。 わたしも今日はがっつり洗髪をしよう。 洗い流す水が、真っ黒なんて、わたしそんな腹黒くないわよっ。 長くなってしまうが、京都新聞の記事を紹介したい。 俳人の彌榮浩樹さんが、5月1日付けで「詩歌の本棚」にふらんす堂の句集を2冊紹介してくださった。 『初鏡』(ふらんす堂)は藤森万里子の第一句集。平成十二年「百鳥」入会から二十八年までの三百五十句を収録。作者の人生における出来事・感慨と、有季定型の俳句のかたちとが、率直に幸福な一体化を果たしている。 花嫁の母となる足袋買ひにけり 梅白し校門に着く郵便車 「足袋」も「梅」も、日常に発しつつ、事実を超えた深遠な〈真実〉の「白」さだ。 風鈴の聞こえて来たる仕舞風呂 湯の宿の雪降る音に目覚めけり 〈風呂と音〉の二句。一句目のアンニュイと二句目の清新、その味わいは対照的。 帽子だけ被りてをりぬ水遊び 自転車は大人用なり冬帽子 「帽子」に子どもの〈生〉が活写されている。一句目の幼児まるだしの無邪気さ。二句目の背伸びをした少年・少女の健気さ。 赤とんぼ来てゐるいるか幼稚園 元町にチューリップ買ふ紳士かな 天守閣見えて鰆のポワレかな 日常詠だが、些事の報告ではなく、日常をほんの少し踏み越えた〈不思議〉が現出している。「ゐる」と「いるか」の干渉によるほのかなめまい。謎めいたキャラクターと化した「紳士」。遠くの「天守閣」と呼応して何とも瀟洒で美しい「鰆」の蒸し焼き。 噴水や募金の声のよく通る 人工の「水」と肉声の「金」、澄んだ空気。様々な感覚が入り混じり、人の世の複雑さを感じさせる。絶品だ。 昭和十四年三重県名張市生まれ。「百鳥」同人。神戸市在住。 『ただならぬぽ』(ふらんす堂)は田島健一の第一句集。四十七章、三百六十九句収録。あとがきに「俳句が俳句であることは難しい。/それは自分が自分であることの難しさと似ている」と記す。 いれものにいれるとねむるように鯊 蓑虫は澄んだ眼の鉛筆になる 鳥の巣に鳥いなくなり夜のこと なるほど難しい。既存の輪郭から逃れ出たうえで、ある存在の様態を定位させよう、そんな志向の作品群だ。 父くじら子くじらリクライニングシート 鈴専門店「鈴屋」末黒野過ぎてすぐ 鵜飼いの鵜ビジネスマンの美のごとし 意味を理解しよう、ではなく、音楽のように言葉の響きを味わおうとすると、精妙な叙情・人生の哀感が感じられる。「ビジネスマン」の「ビ」と「美」と捉える奇想など、じつに独特、何とも愉快。 かまいたち京都にまぼろしを殖やす けむりから京都うまれし桜かな 現実のここではなく、イメージとしての〈古雅な都〉を詠んだ二句。まるで墨絵のような、妖しい景色の湧出。 事務員はパパイヤ他人のために切る 西日暮里から稲妻見えている健康 事実か否かは別に、この人間臭さ・生の実感は切実だ。大切なのは「パパイヤ」「西日暮里」、この言葉だからこの切実さが感じられるのだ、ということ。お見事。 ただならぬ海月ぽ光追い抜くぽ 句集名のもととなった句。「ぽ」の繰り返しの可憐な響きが魅力的。意味の晦渋さが、リズムの整いによって、宮沢賢治のような〈せつない〉メルヘンに化している。これもまた(よき)俳句なのだ。 一九七三年東京生まれ。「炎環」同人。 長いブログになってしまった。 読んでくださった皆さまもお疲れさま。 ブログを書き終えたわたしは、椅子に背をぐっと倒して両足をふんばって、両手をあげて「あーあ!」と大あくびをするように言って、おもむろに髪をかきむしった。 なんだか気持いい。 あなたもやってご覧なさいましよ。
by fragie777
| 2017-05-08 19:44
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