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4月20日(水)穀雨 旧暦3月14日
今日は穀雨(こくう)である。 24節気の一つで、「百穀をうるおす春雨の意」ということ。 雨も有難いものであることを思わせる良き名称である。 新刊紹介をしたい。 著者の渡井佳代子(わたい・かよこ)さんは、昭和23年(1948)埼玉県生れ、現在埼玉県飯能市在住。平成7年(1995)に「狩」(鷹羽狩行主宰)に拠りて俳句をはじめ、平成25年(2013)「狩」同人。本句集は、平成7年から平成27年(2015)までの20年間の作品を収録した第1句集である。鷹羽狩行主宰が、序句、帯文、鑑賞3句を寄せておられる。 ひと揺らぎして落ち着きぬ水中花 虫売の来てふくらます夜の闇 笹鳴きや折あるたびに開く文 水中花を植物のように見、虫売りが闇をふくらませ、ささやきかけるような文など、微妙な感情を織りまぜた作風が著者の特徴といえよう。 とは帯文のことばである。 この句集に寄せられた狩行主宰の序句である。 「椰子の木」という命名は、 私は夫の転勤にともない熱帯の国フィリピンに四年余り暮し、そこで俳句と出合いました。句集名は、ルソン島の空に、青々とした風を生む椰子にちなみ、「椰子の木」としました。 と渡井佳代子さんは「あとがき」に書かれている。 椰子の木を明滅させて除夜花火 集中に収められている「椰子の木」の一句。 鷹羽主宰の序句はこの一句と響き合ったものであることがわかる。 炉塞の一枚かたき畳かな 冬の間使っていた囲炉裏や茶炉を塞ぐのが「炉塞」。「一枚かたき畳」から、畳がなかなか嵌らないということ、また踏まれることがなかった畳であることがわかる。慣れ親しんできた炉の生活との別れを惜しむ気持も「かたき」からうかがえる。 「鑑賞三句」のうちの一句のみを紹介。 教会の木椅子のかたき秋思かな 松手入れ池の中より梯子かけ 授かりし一語さながら冬たんぽぽ 藪椿の真つ赤写楽の終焉地 縫物の針目のそろふ涼しさよ 校庭に子ら出て魚は氷に上る 蟇一歩にはやも立ち止まり 棉摘の手もと離れぬ夕日かな 白息に気おされ言葉呑み込みぬ 松飾りはづして家の軽くなり 木のはだに吸ひ付く鉋春寒し ややこしきこととなりたる蝌蚪の紐 カステラの底の粗目や麦の秋 立秋や湖の面に皺生まれ 桃食べて命ふくらむここちかな 梟の鳴かぬうちにと絵本閉ぢ 身ほとりに積み置きの本年惜しむ 「カステラの底の粗目や麦の秋」のこの「カステラの底の粗目」が最近ちょっと話題になっている。というか、わたしのごく周辺でだ。テレビを観ていたら、まだ日本語もたどたどしい美少年が、「ボク、カステラの下の方の紙がついているところ、大好きなんです。カステラを食べるときは紙をはがしながらそこばっか、食べるんです。」と言っていた。そうか、そんなところを好む男子がいるのかと興味ふかく思ったのだが、さて、そのカステラの、彼にとっては美味しい部分をなんと言うのが適切なのか。。。。そうしてこの一句に出会った。 「カステラの底の粗目」という表現、なるほどと、わたしには新鮮だ。かの美少年にこんな大人の表現があるわよって教えてあげたいところだが、なんせお隣りに住む男の子ではなくて、テレビの向こうできらきらと輝いている男の子なので、なんとも無念である。 などとくだらないことを書いてしまい、お許しください。渡井佳代子さま。 「麦の秋」がカステラの底の質感を気持のよく際立たせているのではないだろうか。 私の句はおおかた吟行で生まれたものです。自然の中に身を置き、そこから生まれる言葉と一体化できればと願っています。これからも自然豊かなふるさとで、俳句を詠んでいきたいと思います。 ふたたび「あとがき」より引用した。 ほかに、 靴どれが誰のものやら夏休み 水中のごとき明るさ岐阜提灯 手のひらにのせて数珠玉月の色 臘梅の一枝に余りたる香り 本句集の装釘は君嶋真理子さん。 造本は小口折表紙にグラシンを巻いたカバーをかけるというなかなか段取りの多いものである。 しかし、全体の出来上りはすっきりと仕上がった。 タイトルは金箔押し。 グラシンは当然人の手によって巻かれる。機械では決してできない仕様のものである。 紙の本の良さが十全に表現された一冊となった。 裏町のむかし花街枇杷の花 「枇杷の花」がいい。 派手さからは遠い鬱屈したような趣のある咲きぶりが、いまは寂れてしまったかつての花街によく合う。その香りはふっと性愛を感じさせる。また老妓を思わせるようでも。 今日はお二人の方がふらんす堂にいらっしゃった。 お一人はフランスのニースからである。 俳人の小津夜景さん。 そして小津さんをエスコートしてきてくださったのは、俳人の福田若之さん。 小津夜景さんは、高山れおな句集『俳諧曽我』を手にされたことがきっかけで俳句を作るようになられた。 その後阿部完市などの作品に親しみ、摂津幸彦賞にも応募され、第2回摂津幸彦記念賞・準賞を受賞されている。 この度句集を上梓することを心に決め、そのご相談に見えられたのである。 フランスに暮らして17年が経過し、日本には帰ることはあまりないということ。 俳句を作り始めてからは、二度目の帰国となられるということ、前回帰国されたときに、俳人のさいばら天気さんに福田若之さんを紹介されて、そのご縁で今回、句集の相談に乗ってもらったということである。 小津夜景さんは、本作りにはとても興味があるご様子。 いろんな資料本をご覧になりながら、担当のPさんにいろいろと質問をされていたのだった。 「ふらんす堂さんは、美しい本を作られるから……」とおっしゃってくださったのがとても嬉しく、励みになります。 余談だが、ニースにお住まいということ、すごい羨ましい。 ニースは南フランスの地中海沿いの美しい街である。(行ったことないけど……) 伺ったところ、パリまでは電車で約一時間ほど、飛行機で3500円(片道)で行けるんですって。 かのグレース・ケリーが王妃となって暮らしていたモナコも近いということ。 小津さんのお住まいからは海まで100メートルくらいで、毎日地中海の海を散歩するんですって。いいなあ……。 「地中海の海って本当に青いんですか?」 わたしは子どものように聞いてしまった。 「青いです」と即答されたのだった。 そのうちにふらんす堂刊行の書物が海を渡ってニースに行く。 わたしはそれで、良しとしたい。 いまのところ。
by fragie777
| 2016-04-20 20:00
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Comments(2)
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