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3月9日(水) 旧暦2月1日
ふらんす堂のカレンダーに今日は「ありがとうの日」とある。 なにゆえに? あはん! 39で「サンキュウ」ということね。 なあるほど。。。 さて、新刊紹介をしたい。 著者の前田留菜(まえだ・るな)さんは、1944年岡山県生れ、現在岡山県総社市在住。平成元年(1989)に俳誌「童子」に入会し辻桃子に師事、平成4年(1992)「わらべ賞」受賞、総社市文学選奨受賞、平成5年(1993)「童子エッセイ賞」「桃夭賞」受賞。 平成11年(1999)俳誌「屋根」入会、斎藤夏風に師事、平成12年(2000)岡山県文学選奨受賞を受賞されている。本句集は第1句集となり、平成18年(2006)から27年(2015)年の10年間の作品を収録している。「屋根」入会以降の作品となる。 句集名は「夏」。全体を四季別にわけて編集、夏の句は全体のなかでとくに多い。 本句集は、前田留菜さんの生活の現場から生まれたものである。 すべての句がそうである。けっしてぶれない作者の姿勢がある。 自選句を紹介したい。 抱卵のにはとり闇のやはらかし 足掻きゐし種つけ豚の立ちあがる 耕耘機子供を乗せてやりにけり 蛙跳びうぐひす高音種下ろし 田植靴脱ぐは踵を産むやうに あをあをと村あり麦藁帽子古り 田水足す稲の花屑走らせて 垂穂田の穂ずれ衣ずれ蓮華蒔 稲刈や総出にはづむ乳母車 すくも焼く通りすがりのあたたかし 10句を紹介したが、ここには農耕にたずさわる人間がその場でつかみ取った実景と感触が俳句のかたちに結実しているものだ。 外側かから見た農村風景でも田園風景でもない。 土に向き合う耕しの生活の断面を俳句で切り取っているのだ。 その切り口からは、さまざな生きものの声が聞こえてくる。 「あとがき」に著者の前田留菜さんは、こう書く。 四世代同居の中堅兼業農家という昔ながらのスタイルで五十年暮らしてきました。そういう場にあって、「個」と「場」の関係への意識が自然に「造化に従う」俳句的なものにつながってきたように思います。生き方考え方の重層する暮らしのなかでは、まず異質なもの、違ったところが目につく。それから、そういうところも含めて、見るものは見られるもののようだと、そこに似たところが見えてつながってくる。こういう暮らし様は俳句の客観写生的、花鳥諷詠的なところへ馴染みやすいものでした。 田んぼの虫が激減しています。畦を歩くとワッと翔っていたつまぐろ横這を今年は見かけません。米づくりの経営合理化が加速しています。そんな中、私は多い時で二ヘクタール(六千坪)の田んぼを私のやり方であずかってきました。基本的に防虫剤を使いません。それでも、田んぼのなかのいのちが薄くなってきています。 この消え失せそうな農の現場を、せめて今、俳句のなかに残しておきたいと、そんなことを思っています。 「夏」は二部構成になっている。 夏の農の営みは、著者にさまざまな発見の喜びをもたらすのだろう。 夏は命がもっとも活発になる季節だ。 著者の前田さんは、農の現場と自身の身体との交感を俳句にする。 土に生きて働くところから掬いあげてきた固有の現場だ。 不要な感情移入はいっさいしないし、己をあえて語ろうとはしない。 幹ぬくく草のつめたく春の昼 雛まつり顔の黒子をなでられて 春泥の付きくる靴に遊ぶなり 春昼の鶏小舎に腕入れにけり 頭から人見えてくる土筆摘 掴みたるひよこに骨や弥生山 玉葱の置かれたやうに育ちたる 蟻が曳く菜虫ふたつにちぎられて 田植田に立つ足の指ひろがつて 汗濡れのなほ雨濡れの苗運び 庭木にも凭せ苗箱五百乾す 梅雨に入る畝にけむりのやうに人 植田から青田へ雨のゆたかなる 田蛙や闇より濃ゆく人の影 夜濯の渦に萍浮かびたる 水田のあまた水輪は蛙の子 影見えてそれから見えて目高ゐる 昼寝村水の奔つてゐたりけり ぬばたまの夜風がぬつと網戸より 飯に乗る魚卵の赤き盆休 いびつからいびつに変はり蓮の露 稲の花ひらくはなびらなかりけり 爪当ててみるは稲穂の乳の入り 唐辛子色づくときは濁りけり 田の色を褒めてはじまるコンサート 立ててあり新米袋口を開け 白菜に巻のはじまる波の音 冬ぬくし畑押さへて婆立てる ごみ出しの次から次へ御慶かな 日の当たる池の凍つてゐたりけり ふはと地にふるるやいなやまでの雪 世にみすてられたものを藝へ高め活かしていく、岡部玄さんの流木による作品を表紙にいただきました。 と「あとがき」に書かれているように、表紙は岡部玄氏の写真によるものだ。 インパクトのあるものだ。 静かであるが激しいなにかが伝わってくる。 本句集もそうである。 写生に徹し、けっして心情をかたろうとはしていないが、激しく力強いものがある。 畑打ち己が足跡消すやうに 「畑打ち」にこめる力と情熱が一句に漲っている。 そして、それだけにとどまらない何かが残る。
by fragie777
| 2016-03-09 19:30
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