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11月25日(月)
今日は支払い日。 午後は銀行回りをする。(これが結構たいへん。あっちに行ったりこっちに行ったりで。) こんな風にいろんなものに出合う楽しみもある。(ええっ、単にノラクラ道草しながら歩いているんじゃないかって……、(しばし沈黙)……そうかもしれない。) 銀行回りを終えてユニクロをちょっと覗いてみると、(まさに道草だ!!)「極暖ヒートテック」と銘打った新製品が出ているのでさっそく一枚黒色のものを買ってみる。一枚1500円と少し高めであるが、この「極暖」ということばに心が奪われてしまった。(あったかいんだろうなあ……)。ふらんす堂に戻ってさっそくスタッフたちに、「ねえ、ユニクロで極暖ヒートテックというのが出たわよ」って知らせると、一瞬みなざわざわとしたあと、やおらに「わたし今着てます」って萌さんが言う。萌さんは臙脂色のを着ていてひっぱって見せるので、「本当にあったかい?」って聞くと「あったかいです」ということ。 「極暖」がいったいどんだけの暖かさか、楽しみなところである。 新刊紹介をしたい。 岡本多満喜句集『蜩』(ひぐらし)。 岡本多満喜(おかもとたまき)さんは、大正14年のお生まれ、54歳のとき森澄雄に師事して俳句を始められた。現在俳誌「杉」(森潮主宰)同人。この度の句集は、第一句集で、34年間の作品を収録してある。句集名「蜩」は、 蜩の夢のつづきに鳴きにけり に依る。この句をあげて森潮主宰は、次のような帯文を寄せている。 岡本多満喜さんのこの若々しい新鮮な詩情はその生涯を通して流れ、また命を運んできたに違いない。その幸いを共に喜びたい。 実は著者の岡本多満喜さんにはお会いしておらずお声も聞いていない。病院に療養中で句集ができるまでのすべてをご息女の佐野眞知子さんがご尽力をされた。ふらんす堂に打ち合わせのために名古屋からはるばるいらしてくださったり、それはもうお母さまのために一所懸命なご様子だった。 お話を伺うと、事情があって小さい頃お母さまと離れて暮らした時期があり、20代で再会し同居、そして結婚のためふたたび佐野さんは家を出られ、今はお母さまを看取られているということである。 「母ははっきりした人ですので、句集についても自身の考えがありますのでそれに従います」と、お母さまの意志をきっちりとこちらに伝えられ、ひとつひとつをお母さまに確認しながらおすすめすることになったのである。集中も娘を詠んだ句がいくつかあるがどれも思いが深い。 雪ぐにや再会の吾娘うなじ細 桜落葉踏んで四十の娘を思ふ 娘を思ふ秋明菊に風の出て 離れて暮らすことの多かった岡本多満喜さんにとって娘への思いはいっそうだったと思う。娘のみならず自身の母親を詠んだ句が多い。 老い母の爪切つてゐる薄暑かな みぞれ降る母のかすかな咀嚼音 病む母に春暁の息合はせをり 春暁の看とり終りし淋しき手 梅さむし柩を石で打つことも 声に出て亡母にもの言ふ桐の花 たくさんの母の句の中からいくつかを紹介してみた。 岡本多満喜さんの句はどれも深い眼差しをしていて、豊かな叙情性がある。季語が効果的にはたらき人間の感情の機微を浮き上がらせる。巧みな作家だと思う。日々の生活の中からおのずと生まれた詩であることも多くの作品が証ししている。 蕗むいて晩年と云ふ中にをり 絵のやうに雪降つてをり雛飾る 塩買ひに出て葉ざくらに染まりけり 帯ゆるく風の野菊の中にをり 行く秋のぽきと鳴りたる膝がしら ひじき煮て針まつる日と思ひをり ふたりゐて淋しき日あり花菜漬 いつからを余生と云はむ瓜をもむ 春さむし二寸に足らぬ魚煮て 声止んでゐる青蔦の英語塾 どこ歩きても水音の盆の村 石蕗咲くやわが晩学の広辞苑 水張つて田のにごりをりつばくらめ 呼べばまだ姉の居さうに冬座敷 春ゆふべまはり径して水に沿ふ 掌を打つて鯉呼ぶ少女朝ざくら そら豆をむくや晩年いそがずに 青梅雨の山へ入りゆく柩かな 春の雪抱くほどもなき菜を買つて つづれさせわれに淋しき耳ふたつ 雪霏々といちにちこゑを出さずをり 著莪の花ひとりになりし米洗ふ 母の日の指輪くるくるまはりけり 森澄雄先生を師と仰ぎ俳句と共に人生の生き方を教えて頂きました。「心を開いていれば、俳句は向こうからやってくる。人生もそうだよ。」「自分をいとおしいと思わない者には、俳句は作れないよ。」「運命などと言うものはない。命は自分で運ぶんだよ。」この三つの言葉が自分を支えてくれました。 「あとがき」のことばを紹介した。弟子にこんな風に語れる師はあまりいない。森澄雄らしいことばだとも思う。偉そうな教訓ではなく弟子をおもうあたたかな心のある、まさに師のことばだ。どれもいいことばだとおもう。こころにシンと入ってくる。師と弟子ということの関係をあらためて思わせるものだ。 夫の掌の胡桃の鳴りぬ雪もよひ ふたり居の生くるつもりの冬支度 一生の今がむつまじ栗をむく つばくらや山のむかうの夫の邑 病む夫の窓開けよとふ雪舞ひ来 うつくしき顔もて逝けり雪降れり 岡本多満喜さんにとって家族はかけがえのないものだったのだろう。夫を詠む句にも心情があふれる。 森羅万象の一齣一齣に生きることの哀歓が織り込まれているのだ。 装丁者は君嶋真理子さん。 「蜩」というはっきりしたタイトルをどうするか、難しいところであったが、すっきりとスマートに仕上がった。 この句集の担当は三好萌さん。萌さんの好きな一句はこれ。 のびのびと玉葱を描く曾孫あり 「岡本多満喜さんがとても大切にされている句なんだ、と感じながら編集していく内に、私の好きな一句になりました。玉葱を一生懸命描く曾孫さんと、それを微笑ましくみつめる岡本さんの姿を想像すると、胸にくるものがあります。」 と萌さん。 実は曾孫さんの絵を本文中に使いたいというご意向があったのだが、いろいろと検討した結果、使わないことになったのである。岡本さんとしては少し残念であられたかもしれない。 目つむれば一生の見ゆ竜の玉 この句集の掉尾におかれた一句である。 「竜の玉」が重々しく荘厳な一句である。 この句集が出来あがるために、森潮主宰と「杉」同人の須賀卉九男氏にいろいろとご尽力をいただいたことを感謝申し上げたい。 今日の讀賣新聞の「枝折」は、大島雄作句集『春風』より。 縁側は小春が寄つて行くところ 大島雄作 野紺菊空がひらいてゆきにけり 〃 定年を迎えて人生の節目を経た作者の第4句集。句作30年の区切りでもある。今後は、より自在かつ平易に詠んでいきたいという著者の折り返し点。 大島雄作さんは、この土日は上京されていたらしい。新聞に記事掲載のお知らせをしたら、 「この土日は、市川での『青垣』の句会に出るため上京。きのうは吟行句会で、巣鴨と旧古河庭園を歩きました。おあばあちゃんの原宿はちょうど縁日で、楽しかったです」 とメールをいただいた。 東京はお天気だったので、良かったですね、大島雄作さま。
by fragie777
| 2013-11-25 19:48
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Comments(2)
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