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5月9日(水)
午後の3時頃だったと思うが銀行をめざしてにぎやかな商店街をあるいていたところ、向こうから鯛焼きを食べながら自転車をふらふらと漕いでくる若い兄ちゃんがいる。髪はマダラの茶髪にパーマがかかり、片手は自転車のハンドルを軽くにぎりもう片手は鯛焼きをつかんでいる。この鯛焼き中身はあんこでなくクリームのものだ。(フン、邪道ね)。高校生くらいだろうか……。わたしが彼を認識しすれちがったのは5秒ほどの時間だ。しかし、わたしは彼が醸し出すその絶対的なのどかさに心を一瞬うばわれたのだ。ふらりふらりと当てもなく自転車をこいで鯛焼きをパクついている男子。彼の世界はどんなんだろう?いったい悩みはあるんだろうか。わたしは凄まじい勢いで彼の心とその世界を想像しようとしてみた。 が、8秒後には彼は去り、わたしは銀行に向かって人波をかき分けて進んでいたのだった。 新刊句集を紹介したい。 山咲臥竜(やまさき・がりゅう)句集『原型』(げんけい)。 著者の山咲臥竜さんは1966年生まれ。 第一句集である。 壺焼の腸勾玉の原型か による命名だ。 「ひとの為すものに原型ありぬべし ひとの心のはたらきもまた」 と帯にある。 「原型」という言葉がいやがおうでも突きつけられてくる。 「原型」を広辞苑で引いてみた。 ①鋳物(いもの)などのもとになる型。②物事のもとの型。源。③洋裁で平面製図の基礎となる型紙。④[哲](Prototypus(ドイツ)自然哲学的な生物学において、生物の諸種の類群から抽象された、現存生物の根源となる型。ゲーテらが論じた、元型。 ウーン。 ともかくも句集を読んでみよう。 目次は4つの項目に分かれている。「原型」「羽化」「肋骨」「皮膚」 歯間より昨晩のネギ冴返る わが頰にミモザの房の跳ねにけり 泡雪や自傷の瘢(あと)の蚯蚓腫れ 泣き黒子にほんのりと影春の宵 しなやかにかひな二本や更衣 枇杷剝くやくれなゐの爪汚しつつ 緩びたるをみなの唇(くち)や螢の夜 水虫やわが身発酵してにほふ 汗の子の果実めくなり風の丘 爆心地跡の屋台に舌焦がす 吾があばら十二対なり鰯雲 まなうらに月の兎を宿すなり ひからびし一枚の皮膚まとひ冬 木がらしを行く贅肉を削ぎにゆく はらわたの打ち震へてや冬怒濤 飽きられし人形凍つる睫毛より 冬の夜や己がふぐりのありどころ 瘡蓋を剝げば肉芽(にくげ)や夜の雪 目次の見出しも暗示しているかのように、身体の一部や身体感覚ともよぶべきものを詠んだ句がかなりある。意識的に詠んでいるのか、結果的にそうなったのかは分からないがそれが興味を引いた。また集中の言葉で気になったものに「削ぐ」「剥ぐ」「むしる」という言葉がある。 木がらしを行く贅肉を削ぎにゆく 瘡蓋を剝げば肉芽(にくげ)や夜の雪 鉛筆を削りすぎたる寒さかな おのが毛をむしるゴリラや梅雨ぐもり 「木がらし」の句が象徴しているように、「贅肉を削ぎにゆく」という表現が、著者が内在的に希求しているものを表現しているようにわたしには思えるのだ。それはある原型への希求ということで言ってしまえばこじつけになってしまうのだろうか。 蒸鰈腹むつちりやむしりたる ぼうたんの生ハムほどに崩れけり 草の上の蛇は草より濡れてをり 堅雪を猪引き摺りて穢しけり ケロイドとなりし傷痕花カンナ 茶の花や夜気に濡れゐし蘂の艶 佐保姫やうすくれなゐの貝の肉 夜の秋貝殻骨に影ほのか 焼牡蠣の殻啜る唇(くち)ゆがめつつ ここに詠まれている肉体や生物や物。これらの俳句はどれもエロスの匂いを放っている。 「エロス」をキイワードにしてこの句集を読み説いていくのも面白い。 「ひとの為すものに原型ありぬべし ひとの心のはたらきもまた」という帯文が甦ってくる。 そうして、 「ひとの心のはたらき」の原型としてわたしは「エロティシズムへの希求」をこの句集に見出すのだ。 青年の横顔に髭梅月夜 紅梅や少女と微熱分かち合ひ 水ぬるむ頃やをみなの蜜もまた ひるがへるシャツより臍や青あらし 汝が乳首緑雨に透けり抱き寄する 五月闇息殺しつつ愛し合ふ 螢火や背徳がゆゑ焦がす身も 夕立にあられもなくて少女らは 迅雷にかがむ女のうなじかな こうしたエロス的なるものを全面に押し出した句よりも、わたしは先にあげた作品の人間以外の生き物が放つエロティックなものの方がより淫靡でエロティックあると思うのである。これはわたしの好みの問題となるのだろうか。 しかし、これは句集『原型』に対するわたしの偏執的な一面的な読みであるかもしれない。 ほかの句もいくつか紹介したい。 あぢさゐの毬に触れゆくランドセル 蛆いぢりゐて母の平手を食らひけり 夕空に匂ひありけり花木槿 くたびれし紙幣のにほひ秋の雨 帰り花咲く散りぎはのやうに咲く この本の装丁は和兎さん。 著者の山咲さんはこの装画をとても気に入ってくださった。 わたしが好きな句はこれ。 飽きられし人形凍つる睫毛より 「睫毛より」がなまなましく悲しい。しかし、わたしは睫毛がほとんどないに等しい状態なので凍え死ぬことがあってもこういうことは絶対ないのである。 これは美人の特典である。 これは昨日の朝撮った愛猫ヤマトの後ろ姿。 なんだかちょっとすごいでしょ。
by fragie777
| 2013-05-08 20:39
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