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4月17日(水)
わが家にはどうやら人間の皮をかぶったキリギリスがいるらしい。 このキリギリス、キリギリス故に仕事をすることは不得手であるが、音楽をこよなく愛する。 ヴァイオリンは弾かないまでもピアノを弾き、最近はウクレレをよく弾く。 朝起きるとすぐにウクレレをつまびきながら歌をうたい、そしてどこやらへ出かけ、帰ってくるとキリギリスの部屋より夜遅くまでウクレレの長閑な音が聞こえてくる。そしてキリギリスの動線はすぐわかる。楽譜がそのまま置かれっぱなしになっていたりするから……。 働き蟻のごときわたしは、そのウクレレの音を聞きながら、キリギリスが悪気なくやりっぱなしになってしまったものを片付けたりしながらため息をつくのだ。 しかし、これは仕方のないことである。 キリギリスの属性と蟻の属性は異なるのである。 芸術を愛し働くことの嫌いなキリギリスに蟻の勤勉さを押しつけてはいけないのである。 しかし、 である。 もう少し、 まともな音楽を聞かせてくれないだろうか。 せめて。 新刊紹介をしたい。 岩岡中正著『子規と現代』。 俳人・岩岡中正氏の前著『虚子と現代』(角川学芸出版刊)に次ぐものであり、子規を通して日本の近代の再構築を展望しようと試みる意欲的な評論である。岩岡氏はこの三月まで熊本大学法学部教授として政治思想史を専門にされて来られた方だ。一方20歳から「ホトトギス」で俳句を学び、俳誌「阿蘇」を主宰する俳人である。ふらんす堂より、第一句集『春雪』と初期句集『夏薊』を上梓されている。 思想史研究者であり俳人であるという二つの極を要にして独自の論考で迫ったものが、『虚子と現代』であり、この度の『子規と現代』である。 私は前著『虚子と現代』(二〇一〇年)で、高浜虚子を俳句作家としてとともに、その思想を、たんなる俳句創作理論ではなく日本近代思想史における反近代の思想であり脱近代の思想とも言うべき新しい思想的意味をもつことを明らかにした。(略)。 私は、わが国の戦後近代の中で、ともすればたんに因循なる「前近代」として批判され乗り越えられるべき対象とされた虚子の花鳥諷詠論とその生き方を、現代の視点から再評価したいと思ったのである。(略) 私はこの虚子の脱近代的世界観を評価しつつも、これを実現すべき新たな「近代」への手法とエネルギーが必要であるということで、その視点から『虚子と現代』では、あらためて今こそ子規を再評価することの必要性について論じた。(略) つまり、まず子規の近代から虚子の脱近代について「子規から虚子へ」という形で虚子の現代的意義を説きつつ、さらにこれを超えて、この脱近代の世界を実現するために、こんどは「虚子から子規へ」という形で、子規の近代的意義を論じた。こうして、子規と虚子の思想の関係を円環構造、つまり内省を通して再帰的に発展する構造をなすものとして捉えた。 したがって、「子規と現代」というタイトルで以下述べるのは、現代の課題を解決する思想として今あらためて「子規の近代」という出発点に帰るべきだということである。もちろん、子規が生きた時代と問題状況は今日とは大きく異なっている。にもかかわらず、いま私が子規をとりあげるのは、子規の「近代」を深くボーリングしていくと、そこには生き生きとした近代性(モダニティ)という、時代を超えた普遍性があって、それが、脱近代の時代構築という現代の私たちの生き方と課題解決に役立つのではないかと思われるからだ。 「はじめに」にあたる文章を極めて抜粋的に紹介したのだが、岩岡氏の子規へと傾斜していく問題意識にふれることができるのではないだろうか。この評論の特筆すべき点は、近代人子規をその全体像としてとらえながらも俳人子規を虚子との違いにおいて際立たせた点だ。子規の近代性を虚子はどう引きついだか。そしてその近代的自我、つまり「主体性」と「自由」の問題をかの宗教改革者マルチン・ルターとの関連において捉えなおしたことも興味深い。これは岩岡氏のキリスト信徒としての主体性をかけた問題として展開されているものであり、そこには一俳句作家として一信徒として抜き差しならぬものがある気迫にみちた論考である。 わたしはこの辺のくだりを個人的にはとても興味深く読んだ。 さて、 あなたはこの著書をどう読むか。 正岡子規が新しい時代の息吹のなかでどう時代を見据え、日本の行方をどう展望し、また俳句と言う文芸をどう方向づけようとしたか、活き活きとした近代人にわたしたちはこの一書で出合うことになるのだ。 この本の装丁は和兎さん。 見返しの用紙の色がこの装丁の基調色だ。 この三月で岩岡中正氏はながくその職にあった熊本大学を退官された。この評論集『子規と現代』は、氏の在職中の最後の出版となった。 書店には今週末から来週のはじめにかけて並ぶ予定です。 子規のみでなく虚子の時代へのしたたかな読みを知ることの一書でもあると思います。
by fragie777
| 2013-04-17 19:40
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