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12月11日(火)
女の子の姿が浮かんでくるようだ。 昨夜家の前に置いてあった回覧板を今朝、仕事場に行く前にお隣にとどけた。 とどけたと言っても朝はどこも忙しいので郵便受けのところにそっと置いてきたのだった。 そして、わたしはいま気づいた。 その回覧板になにが書いてあったか、とんと読んでいなかったということを。 クリスマスの夜に、近辺の野良猫たちが集結して踊り狂う大宴会への招待だとしたら、どうしよう。 yamaoka、一生の不覚である。 悔んでも仕方ないので次にいきたい。 新刊句集を紹介したい。 草野准子句集『月代』(つきしろ)。 著者の草野准子さんは、俳誌「狩」(主宰鷹羽狩行)に所属し、エッセイストでもある。ご家族のお仕事の関係で海外滞在の長かった方である。鷹羽狩行主宰が序句と帯文と「鑑賞10句」を、片山由美子副主宰が跋文を寄せている。 順あるがごとくに咲いて花野かな 狩行 寄せられた序句である。 タイトルの「月代」は「月」のこと。草野さんは「月」がお好きなのか、タイトルだけでなく四部にわかれた見出しもすべて「月の人」「十三夜」「今日の月」「盆の月」と「月」にかかわる見出しである。 「融通無碍」と鷹羽狩行氏が帯文に書くように自在な句風というべきか。「鑑賞10句」から少し紹介したい。 更衣して二の腕をよろこばす 冬から春にかけては、二の腕を人目にさらすことはない。風薫る初夏を迎えて半袖となり、颯爽と外出した。すると日ざしの下で、二の腕がいきいきと喜んでいるように見えた。更衣によって気分が一新し、軽快になったためである。 たをやかに着て鉄壁の薄ごろも 妙齢の婦人がパーティーにうすものを着てあらわれた。しかも一点の隙も見せずに。「薄ごろも」とは逆の「鉄壁」という言葉によって、その女性の性格までも描出。 跋文を寄せている片山由美子さんはこの句集『月代』を明快に分析してみせる。 蘆刈られ静かな湖となりにけり 立葵かくも律義に咲きのぼる 鯛焼を買ふ列にゐて落ちつかず おほかたは女が占めて夏期講座 色あらば面白からむ蝌蚪の紐 涅槃図の余白はわれのためなるや どこからか電子音して梅雨の家 用なくば子の来ずなりて秋の風 第一にリズムがよいことである。言葉がかろやかに流れ出てくる。それは、長年エッセイを書く修練をされていたことによるようだ。言葉に無理強いをせず、一語一語の美しさを引き出す。その結果、狙ったものが確かな表現によって描き出されるのである。 そして「対象がくっきり浮かび上がる、すぐれた描写の句」、「人間心理のちょっとした機微をとらえるのも得意で、ユーモアのセンスを感じさせる」「発想が自由であり、明るい。想像力の豊かさを感じる」「現代の生活が垣間見える」と作品をあげながら片山さんは書く。その作品の一部を上記に紹介したがどの言葉に対応しているかはすぐにお分かりになるはずだ。 思はざるときのしづくや吊忍 春昼の図書館に棲む睡魔かな こゑあらばかしましからむヒヤシンス お降りといへどいづこも濡れてゐず 人形の服も洗ひて五月晴 首ぐいと摑まれてゆく扇風機 日かげれば水のむらさき菖蒲園 立ち読みのうしろ暮れゐし冬至かな 人日の爪といふ伸びやすきもの 草餅をまるめ手のひらよろこばす 人はみなさだめを負うて今日の月 春ショール旅のひと夜のコンサート 各階に止まり秋暑の昇降機 庭を掃く音どこからか菊日和 自転車の落としてゆきぬ春の泥 夫留守のわけても八十八夜寒 身の丈のほどを巻き上げ秋簾 一九九三年、常夏の国・インドネシアはジャカルタより帰国した。商社員の家族として、それまでにも二度にわたり香港駐在を経験し、計十数年を海外に暮らしていたことになる。久しぶりの祖国は、折しも新緑の五月。美しい日本の四季に今さらながら感動を覚えた。これが自然に俳句を始めたきっかけともいえる。(略)二〇〇〇年、試みに初めて投句してみた。JTBの雑誌「旅」である。選者が狩行先生であった。初心者のマグレだったかもしれないが、〈黒海といへど紺碧春の潮〉が、特選第一席に選ばれた。つづいて〈外つ国の巨花の名知らず雲の峯〉も特選に。信じられない思いながらも、さっそく「狩」に入会させていただいた。(略)「狩」誌への投句では、狩行先生の添削の一字一句に目から鱗の思いをしたり、会心の作が先人に類句があったりで、まこと俳句は学ぶほどに奥が深い。 草野准子さんの「あとがき」の言葉である。エッセイストとして一書を上梓し、文章を書くことを楽しんでこられた著者が日本への帰国をきっかけとして俳句に出会ったのである。片山由美子さんはこう書く。 草野さんと句会を共にするようになってだいぶ経つ。初めは個人的に言葉を交すことはあまりなかったが、スーツのよく似合うすてきな方だと思い、遠くから眺めていた。醸しだす雰囲気といい、センスのよさが感じられた。私は、この人間としてのセンスというものが、俳句を作るうえでとてもだいじだと思っている。多分それは、美意識や言語感覚につながるものだからである。 海外生活で培われたものもまた俳句のための豊かな土壌となっていることだと思う。 この句集の装丁は君嶋真理子さん。編集担当は愛さん。ふたりの鉄壁コンビによって美しい本が出来上がった。 金とむらさきがテーマ色となった。見返しはうすむらさき。 実は「むらさき」の色を好まれる女性が多い。むらさきの装丁というのはとても難しい。むらさきといっても人それぞれのむらさきがあり、ちょっと外すと下品なものになってしまう。一番神経を使う色であるかもしれない。今回のむらさきは成功して美しい仕上がりとなった。 さてと、わたしが気に入った一句はこれ。 暖かや浅草に買ふ揚げ饅頭 どうしてかっていうとほんの少しまえに、いただきものの揚げ饅頭を食べたばかりなんだもの。 みんなで「美味いよ、美味いよ」と言って食べたのだった。
by fragie777
| 2012-12-11 19:38
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