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9月26日(水)
過ごしやすい日々となった。 と同時に空気が澄んで家のなかの埃やらなにやらも目立つようになってきた。 つくづくと最近わたしというものが分かってきたのであるが、(なかなか奥が深いよ)わたしは目に見えるところはどうにかきれいにしようとするが、目に見えないところは汚くてもへっちゃらであるということだ。目に見えないというのは正確ではないが、つまり通常はそこは見えずなにかの行為をしないと見えない場所、冷蔵庫であったり箪笥の中であったり抽斗の中であったりそういうところよ、もうめちゃくちゃである。とくに冷蔵庫を整理するのが苦手。冷蔵庫を開けるたびに(ゲッツ)って思うが、冷蔵庫を閉ざすとすぐに忘れてしまう。だから365日×5=1800回以上一年間に(ゲッツ)って思っているのだが、すぐに忘れてる。一生ゲッツって言ってろ、っていうもんよ。恥ずかしいわね。 さっ、新刊紹介をしよう。 嘴朋子句集『象の耳』(ぞうのみみ)。 第二句集となる。精鋭俳句叢書の”serie de la neige"(雪のシリーズ)にとしての刊行となった。著者の嘴朋子さんは、俳誌「萬緑」に所属し、「萬緑」新人賞、「萬緑」賞を受賞された力のある俳人である。栞は片山由美子さんが寄せている。 嘴さんの俳句を読んでいると、ほのぼのとした気分になる。 と片山由美子さんがその栞に書いているようにこの句集にはどこか田園の牧歌的なのどかさがある。そして著者自身が童心を失っていないそんな素朴さもこの句集を好感度の高いものにしている。 たてがみの量感を以て麦熟るる 水出づる亀の輝き子供の日 雨蛙触れきし指の火照りけり 竹馬の先夕焼に触れてゐる 全身で親を待ちたる燕の子 ひしめきて運ばるる豚春兆す 峰雲や野菜はみ出すコロッケパン かぶと虫葬る小さき土饅頭 田水張る帽の鍔まできらめけり ひとつだけ子の願ひきく河鹿の夜 芋虫やその身より濃き糞のいろ 読初の賢治の詩より水の音 見えぬもの恐ろし蟬の穴あまた エプロンの紐解くやうに春が来る 早苗饗や膝やはらかく酔ひてをり ピーマンを切ればムンクの叫びめく 柚子風呂の柚子分けて入る膝小僧 失ひし言葉充つるか木々芽吹く 農機具に声かけしまふ月おぼろ 宇都宮に移り住んで二十年近くなりますが、田園が広がるこの地の風景は私の俳句の中で欠かせない存在となっています。平成十九年に「萬緑」の選者であった成田千空先生が亡くなり、心にぽっかり穴が開いたようでした。お会いすると「とにかくたくさん句を作ってくださいよ」とおっしゃっていました。その言葉を胸に刻んでこれからも精進していきたいと思っております。この十年間は子育てが一番大変な時期でもありましたが、俳句が自分を支えてくれていることを実感できた日々でもありました。 「あとがき」の著者のことばである。 作品を通して著者の充実した生のありようが伝わってくる。子育てをしながら濃密な時間を生きている著者。子どもとともにある時間が多いゆえか、ものを見る目線の低さがいい。ゆったりとした時間があり人の暮らしの手応えが確かだ。 直角に森曲がりゆく鬼やんま 五月来る水車の雫垂直に 脱ぐやうに解く肩車梅日和 青梅の盥にあける音青し 鶏のとさかくすみて冬隣 短日のナース小さく風切つて 実千両庭師音無く地に降りて オルゴール力尽きたる春夕べ 落ち着かぬががんぼと居て独りの夜 『象の耳』の多彩さを見てきた。嘴さんは、自身の耳で聞き、手に触れた実感をだいじにしている。それが、最近ふえているムードだけの俳句との大きな違いだ。もうひとつ付け加えておきたいのは、田園風景や農作業を詠んだ句が少なくないことである。横浜から宇都宮に移り住んだ嘴さんの周りには、昔ながらの自然が残っている。それが、嘴さんの俳句におおらかさと安らぎをもたらしているのではないだろうか。土の匂いが残る、貴重な句集である ふたたび片山由美子さんの栞の文章を紹介した。「土の匂いが残る」と書かれているが、同様に「日向の匂いもたっぷりする」向日性のある生命の輝きに富んだ句集だと思う。まっすぐな視線で生を両手でがっしりと受け止めている作者がいる。 一陽来復風宥めつつ象の耳 冬帽子脱ぐ少年の耳白し ひたすらに春日を透きて豚の耳 「象の耳」は句集名となった句である。著者は豚の耳も詠んでいる。象の耳も少年の耳も豚の耳も生の明るさで照らされている。気持ちのよい句集だ。 この句集の装丁は君嶋真理子さん。もちろん象がポイント。 わたしの好きな一句はこれ。 木の洞に始まる童話雲の峰 この句を読んでひとつの絵本を思い出した。子どもたちにさんざん読んでやりわたしも大好きな絵本である。それは『めっきらもっきらどおんどん』。木の穴に吸い込まれいったたことから始まる物語。こういうお話はたくさんあるけど「めっきらもっきらどおんどん」は特に印象的だ。嘴さんもひょっとするとこのお話のことが念頭にあったのかなあ。「おたからまんちん」というはげ頭の妖怪が出てきて、それが楽しい。むかし電車に子どもたちと乗った時、はげあたまのおじいさんがいると「あっ、おたからまんちんだ!」って子どもが叫び、思わず「しぃっー」って口をふさいだことがある。物語は夏の日の話だったような気がする。だから「雲の峰」。 嘴さん、これってやっぱり「めっきらもっきらどおんどん」のことですか? 昨日の俳誌「ランブル」の15周年のお祝の会の写真をアップします。 落ち着いて風格も出てこられた上田日差子さん。 大勢の方がお祝いの会に出席されとても盛大な会であったということである。 ちなみに「ランブル」とは「琥珀」のことであるということ。 これからの益々のご充実をお祈り申し上げております。 おめでとうございました。
by fragie777
| 2012-09-26 19:53
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