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8月25日(木)
昨夜のことだ。 誰もまだ帰っていない家に帰ったところ、虫の音がとてもよく聞こえる。 (ああ、もう秋なのね……) とうっとりとして、さて雨戸を閉めようとガラス戸に近づいたところ、あらまあいやだ、あけっぱなし、網戸だけで鍵もなにもかけていない。物騒なことこの上ない。 どうりで虫の音がよく聞こえるはずだわ……。 さてと今日も新刊句集を紹介したい。 沼田真知栖(まちす)句集『光の渦』。 沼田真知栖さんの俳号の真知栖(まちす)の由来はこのブログでも一度ご紹介したことがあるが、数学のmathematicsからのものであるということだ。「まちす」と聞くとあの画家のアンリ・マチスを思い浮かべてしまう人が多いのではないだろうか。スタッフの緑さんは絵画好きということもあって、すぐに「あのマチス」って思ったそうだ。しかし、「あのマチス」ではない。沼田さんは高校で数学を教えておられるのだ。mathematicsの「まちす」とはなかなかである。じつはわたしは数学についてはちょっと情けない思い出がある。高校・数学とわたしの頭にインプットするとかつて高校生の時の試験の点数がすぐに浮かんでくる。微分積分だっただろうか数学の苦手なわたしがあろうことか100点満点中98点という驚くような点数を取ったのだ。これはびっくりした。しかしである。次の試験では、な、なんと8点だった。これにもびっくりしてしまったがこちらの方が悲しいかな納得。高校の思い出もほとんど消え去る日々、この点数だけは今も鮮明に覚えている。と余計なことを書いてしまった。 さて、沼田真知栖句集『光の渦』である。沼田さんは俳誌「萬緑」の同人であり、2007年には「新人賞」を受賞されている。今度の句集はおよそ10年間のものまとめた第一句集となる。序に代えてと題し、今は亡き師・成田千空の「萬緑」誌上で沼田さんの作品を鑑賞した文章を収録している。少し紹介したい。 路地裏に届く夕日や菠薐草 路地裏の狭い庭土、あるいは容器にでも栽培されている菠薐草であろうか。静かに夕日が届いて、菠薐草のみどりを際立たせている。よく育った菠薐草にちがいない。日の恵みのすくない路地裏かもしれないが、季節の恵みは明らかで、住民は哀歓を頒ちあって生きている。青々と語りかけてくる路地裏の菠薐草にほだされる。 つつと来てつんつんつぐみつんのめる 鶫はシベリアで繁殖し、秋、日本に渡ってくる。寒いシベリアから秋の餌も豊かな日本へ渡ってくる鶫たち。鶫のみならず無数の鳥たち。渡り鳥たちは恩恵の地を知っているのであろう。この句は、鶫に焦点をしぼっていきいきと表現している。つつと来て、つんつん、つぐみつんのめる。というリズムがつぐみの動きを捉えておもしろい。 ほかに千空氏が鑑賞されているものには次のような句がある。 台風の近づいてゐる中也の眼 宇都宮餃子は月へ行く船か 菜箸をつなぐ細紐春三日月 日の暮れて雨大粒に三社祭 草千里望郷千里きりぎりす さねかづら手に乗るほどの幸でよし 極月の声の大きな男かな 「宇都宮」「日の暮れて」「極月の」などわたしも好きな句だ。とくに「宇都宮」の句は「宇都宮の餃子」を知っているとおもわず笑ってしまうような句だ。「萬緑」では宇都宮で俳句の大会をしたと「序に代えて」で書かれてあるが、わたしも旅行の帰りに友人たちと宇都宮に降り立って驚いた。これほどまでにあちこちに「餃子」のお店があるとは。なにゆえに「餃子」なのか判らなかったが、ともかくも流行っていそうな店に入ってみた。全体どこも大衆的な店構えであるが、その店も威勢のいい店だった。味は……?ウーム。わたしのつくった餃子の方が美味いぞ…って内心思ったりしたのだった。この句「餃子は月へ行く船か」が面白い。夕暮れの宇都宮に降り立ってあっちにもこっちにもあるあの餃子の三日月。「旅のつれづれの遊びごころと、宇都宮への挨拶が感じられるよい句だと思う。」と千空氏。 ひらがなの似合ふさよなら息白し 口に残る麩菓子の色や業平忌 缶蹴りの缶に足置き雲の峰 ひるがへる金魚や午後の神経科 人日の胸に零れし歯磨き粉 風吹いて光の渦のゆりかもめ かぼすサワー平凡な日の終はりけり 結び目は花咲くかたち春祭 亀鳴くや洗濯物を抱きしめて 箱庭に置く人生をひとつづつ 教室はひかりの巣箱秋の昼 きちんとした形で俳句を始めて十年が過ぎ、とりあえず句集をまとめようと思った矢先にあの東日本大震災が起こった。高校で数学を教えている私はその日卒業式で式は終わっていたが、電車が止まり余震の心配もあるので、残った生徒を学校に泊め自分も泊まった。被害の全貌を知ったのは次の日家に帰って以後のことである。直接の被害に遭ったわけではないのだが、気持ちが落ち込み俳句作りは滞り句集のまとめもはかどらず見送ることも考えた。しかし俳句というものは読まれるときにはどこかに希望が輝く祈りのようなものではないか。私自身の俳句など全く無力に等しいが、多くの人のそのような活動が大きな力となることを信じたい。 「あとがき」のほとんどを引用した。大震災をへてこのような思いののちに刊行された一冊である。 沼田真知栖さんの著者略歴のところに「日本アルベン・ベルグ協会会員」とある。何だろうって調べてみた。 「日本アルバン・ベルク協会」 背の高い数学者の風貌にもうひとつ別な素敵な顔が加わった。ほおー、なるほどってすごく納得できるものである。 担当スタッフの優明美さんの好きな句は次の一句。 少し酔へばみんないい人八重桜 「ねえ、どうしてこの句が好きなの?」って敢えて優明美さんに聞いてみた。「エヘヘヘ……」って笑って答えてくれない。そういえば優明美さんは酔えば酔うほど明るくなるいいお酒だ。 ちょっと笑ってしまった句は、 渋谷は谷青山は山風光る 人の世に丸と三角おでん酒 これってやっぱり数学者の発想かなあ……。わたしはかつての勤め先が渋谷でしかも青山がすぐそばだったのでそういえば青山からいけば渋谷は坂を下っていくかもしれない、でもそのことを知らなくてもこの句、つくづくそうよねって思ってしまう面白さがある。そして数学者沼田さんには、人の世に「丸と三角」が際立ってよく見えるんだろうなあ。それともおでんの具のかたちかしらん。 しやぼん玉まづ太陽へ飛ばしけり わたしの好きな一句である。 優明美さんが書店営業に行く。 今日は池袋と新宿方面だ。 このブログを書いていたら、チビ猫「きい」がやってきた。なんと今度は兄弟をつれて来た。こっちの方が痩せていて警戒心がつよい。Pさんが「つう」と呼んで餌をあげるとものすごい勢いで食べている。 食べ終えると商店街に二匹で帰って行った。 明日はいよいよイベントである。 いらして下さる方々のためにも余り暑くなりませんように。
by fragie777
| 2011-08-25 19:56
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