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6月13日(月)
疲れがたまっていたらしく今日はすっかり朝寝坊をしてしまった。 今朝は早く仕事場に行ってゲラを読もうと思っていたのに、またまたスタッフの緑さんに「ゴメンナサイ」って言わなくてはいけない。 先週のはじめから下版(げはん)にするって言い続けているのに。 あーあ、あきれられちゃうなあ……。 おまけに昨日洗濯機に放りこんでそのままにして出かけてしまった物(ぶつ)が洗濯機のなかでよじれたまま洗濯機の硝子窓にひっついてうらめしそうに私を見ている。 (分かったわよ。あんたたちを干してやるから心配しないでよ) そんなわけでひと通りのノルマを終えて、わたしはどうにか定時までに出勤できたというわけである。 新刊句集を紹介したい。 木村燿子句集『片寄波』。 著者の木村燿子さんは、俳誌「藍生」(黒田杏子主宰)と俳誌「樹氷」(小原啄葉主宰)に所属、この度の句集では、黒田杏子主宰が序文を、「藍生」のお仲間の柴田綾子さんが跋文を寄せている。 雛祭シャワーのごとく子ら歌ふ 挨拶が追ひかけてくる木の芽時 行く春や家族写真の中にゐて 白鳥のいづこの国の首輪なる 子の話だんだん蛇の長くなる 眉月や呼ばれし心地して佇ちぬ 来た道へ向きを変へたる穴惑 句集『片寄波』は、平明に編まれているように見えるが、実はこの句集には大きな悲しみを抱いてひっそりと佇む著者がいる。 意欲にあふれ、健康と体力にも恵まれた一人の女性が、予期せぬ不幸、つまり最愛のご子息のひとりを突然に失うという事態態に見舞われた と、序文に語られる。 羅や掌よりあふれし数珠の音 呼ぶやうに応ふるやうに夕蜩 海峡も空も群青初嵐 払暁の桔梗の開く音を待つ 雁渡る白装束の列の上 後の月闇といふ空蒼くして 冬の蝶日差しの中に見失ふ 結願の句座や冬霧押し上ぐる 霧氷林朝日ちりばめ結願寺 ご子息を亡くされた著者は、 その菩提を弔うために、はるばるみちのくの岩手県から四国に通いつめ、たったひとりの徒遍路を発心、満行された。その身体と心を張った「行」の中から詠みあげられた作品群をこの一集の白眉とおもい、学ばせて頂いてきた。 と、黒田杏子氏は、掲句の作品をとり上げている。 著者の木村さんはご自身が遭われたその哀しみについてはつつましやかであるが、この句集に収録された作品は、著者の思いに身をそわせるといっそうの深まりをおびてくる。 青年と一会の歩幅猫じやらし 徒遍路とは一つひとつの礼所を徒歩で歩きつないでいくものだという。この「かちへんろ」という言葉からも、この方法が一番大変な難行であることは容易に想像される。燿子さんはこの青年がとてもよく気使ってくれたことを、何度も話してくれる。私はその青年はきっとご子息だったと思う。 柴田綾子さんはこう跋文に書く。 著者の木村さんは岩手県山田町生まれでいまは盛岡市にお住まいである。句集には、その故郷の風景が詠まれている。 (しかし、この度の震災で大変な被害をこうむったところである。心よりお見舞い申し上げたい。) 磯汁に雪の舞ひ込む陸奥の国 春愁や浜の訛りの中にゐて 海鞘を焼く浜の少年歯の白き 今はすでに著者の思い出のなかにしか存在しない風景となってしまったのかもしれない。 季語との出会い、すばらしい句友たちとの出会い、そして旅や吟行という楽しさに苦しみも少し加わり、自然の移ろい、身ほとりの変化を五・七・五に表すことを教わりました。 「俳句との出会い」を木村燿子さんは「あとがき」にこのように書く。 「苦しみも少し加わり」とご自身の苦しみについてはやはりどこまでもつつましやかな方だ。 腹みせてカスベ売らるる流氷期 これは担当の愛さんが好きな一句である。「カスベ」とは「鱏」のことであるという。 「小さい頃よく食べたんですよ。切り身で売られていてこういう風に売られるのは珍しいかも……。カスベって言葉、なつかしいです」と愛さん。 どやどやと来て畳屋の針供養 これをわたしは選んでみた。「畳屋」も「針供養」も日常から遠くなりつつあるが、これは畳屋さんの様子が見える句だ。 お客さまがご来社された。 いま句集をおすすめしている石橋万寿さん。 かつて何度かクラブ関東句会で合同句集を刊行したときのメンバーのお一人で、俳誌「狩」に所属されている。 担当の愛さんと打ち合わせをして、表紙のクロスをお決めになって帰られたのだった。 今日の「増殖する歳時記」は、清水哲男さんによって、山口昭男句集『讀本』(とくほん)より。 じやがいもの咲いて讀本文字大き 作者は昭和三十年生まれ。したがって戦前の教科書である「讀本」を、実際に教室で勉強したわけではない。 とあり、わたしもそう、讀本って知らない。 でも清水さんも書かれているように、ジャガイモの花が咲いて讀本を読んでいる自分がなつかしく思い出されてくるような気がした。ジャガイモの花がいい。教室の窓ガラスは木の枠にはめ込まれていて、ちょっと眠気をさそうようなジャガイモ畑が広がっている。 そんな風景を連想してしまう。 それを清水さんは、 文字の力、文学の力とは、こういうものである。 と書く。 昨日付の毎日新聞の「空想書店」で、東直子歌集『十階』が、六月の店主の歌人の穂村弘さんによっておすすめの一冊に選ばれている。 「本選びの個性が見える店」 と題して、五冊の本を選んでいる。 『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』(ジェフリー・ユージェニデス著、ハヤカワepi文庫) 『こちらあみ子』(今村夏子著、筑摩書房) 『ton paris』(茂田井武著、講談社) 『イエローバックス』(高浜寛著、有学書林) そして、東直子歌集『十階』。 この本たちを選んだことについて、穂村さんはこう書いている。 ジャンルやテーマに拘らずに5冊を選んでみた。ばらばらにみえるけど、私の脳内では強く結びついている。どれも最高に面白いですよ。 それぞれの本に穂村弘さんの短いコメントが付けられている。、東直子歌集『十階』には、 東直子の短歌日記。「あたまから冷たい水をかけあった姉妹はどんな遠くへ行くの」、運命の果てしない眩しさを感じる一首。 わたしは穂村さんの選んだ『十階』以外の本を読んでいないし、その存在も知らなかった。 興味を持ったのは、『ton paris』。「君のパリ」とでも訳すのかな、30年代のパリの雰囲気が楽しめるそうな。そしてもう一冊『イエローバックス』。「こんな漫画があったのか、という驚き」と穂村さん。表紙の挿画が気に入った。 それにしても、この記事で何より目立つのが穂村さんの直筆でかかれた一文。 峰不二子の本棚が見たい。穂村弘 お気持ちよーく分かりました。 で、 やはり穂村さんの影響力はすばらしく、今日は、東直子歌集『十階』の注文の電話がふたたび鳴りだしたのだった。
by fragie777
| 2011-06-13 20:54
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