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1月13日(木)
寒い朝のはじまりだった。 フン、上等な寒さじゃない……。 って呟き、大きく深呼吸をした。 昨年のうちに出来上がっていた新刊句集を一冊紹介したい。 著者は近藤喜代さん。 わたしの故郷の秩父の方で、わたしの亡母とも兄とも親しい方でそんなご縁よりこの度句集をつくらせていただいた。ご主人の近藤壽一郎氏は画家で、絵を描いた私の母とは親しくわたしが高校生のころなど家にときどき見えていた方だ。 俳誌「若葉」(鈴木貞雄主宰)に所属し、この度の句集『炭の尉』(すみのじょう)には、鈴木貞雄氏が序文を、跋文はお仲間で秩父在住の新井ひろし氏が寄せている。 夜咄の起居にゆるる炭の尉 句集名となった句である。これについては、鈴木貞雄氏の序文の一文を紹介したい。 「炭の尉」の句は、夜咄の茶事を詠まれている。冬の夜、蠟燭一本と炭火の明りのほかは何の明りもない茶室で催されるお点前は、幻想的ですらある。薄明りのなかで、主人のお点前の動作に炭の尉がほのかに揺れる、幽玄な世界を表出している。 近藤喜代さんは裏千家の茶道教授であり、裏千家代表としてフランスやイギリスなどの海外にも行かれるという方らしいのだが、わたしが存じ上げる近藤さんは「喜美子ちゃん、喜美子ちゃん」とわたしのことを親しく呼び、母をなつかしがってくださる素敵なおばさまである。ついでに書くとわたしの兄のお茶の先生でもあるのだ。だから、なんというかよく知られっちゃっているのでちょっと恥ずかしい。まっそれはともかく、この度の句集は長い句歴のなかから精選した第1句集であり、茶道をきわめるかたわら俳人として秩父の自然を豊かに詠いつづけたその作品の結実なのだ。 水打つて沙羅の落花を濡らしけり 切れ長の眼を伏せ薪能終る 冬日さすところ山家のかたまれる 虫籠の中にゐるごと虫を聴く その一句一句のどの措辞にしても客観描写に徹し、その表現は微動だもない。それは清崎先生、鈴木先生の花鳥諷詠、客観写生の教えを忠実にまもっていることに外ならない。どの作品にも言えることだが、造化への思い遣りを強く感じるのは、作者の優しさ故であろう。 とは、跋文を寄せた新井ひろし氏の言葉だ。 蹲踞に水を満たして月見茶事 足音のして白萩のこぼれけり げんげんのぎつしり咲いて序列なし 目をつむり雪片払ふ日暮かな 薄氷に突きささりゐる蓮の骨 藤房の落とせしものが光りけり 水馬の睦み合ひては横つ飛び 蓑虫の天地無用でありにけり 近づきつ夜祭ばやし地より湧く くつきりと柱影曳き日の短か 俳句は、「花鳥諷詠、客観写生」という両先生の教えに従い、句作りは殆ど吟行に依ったものです。自然に触れては存問することの喜びに浸りつつ、いつしか俳句が心の拠り所となっていました。その時その時の出合いの一期一会に感謝するばかりです。これからも、その一歩一歩を大切に重ねてゆきたいと思っております。 「あとがき」のことばである。 この句集をひらくと「秩父夜祭屋台」と題した絵が目に飛び込んでくる。さすがいい絵だ。そしてわたしには涙がでるほど懐かしい「秩父夜祭り」の風景だ。幻想的な笠鉾が宙にのびあがり、夜空に打ち上げられた花火に触れんとしている…、おびただしい蝋燭の灯りと連発する花火、火と光のすさまじい競演だ。 「ねえ、『炭の尉』ってどういう意味?」この句集を手にしたわたしは担当の愛さんにたずねた。 すでにその意味を調べていた愛さんは、すぐに教えてくれた。 「炭火の白い灰になったものをそう言うようですね。茶道のことばみたいですね」 「炭火の白い灰になったもの」とは、それはまた深い余韻を残すことばである。 「炭の尉」ということばを知っているだけで、もう一ランク大人になったような、人間の格がアップしたようなものを感じさせちゃう言葉だな……、これは。 この句集が出来上がったときわたしは近藤喜代さんにすぐにお電話をした。 「わたしの母が生きておりましたら本当にこの句集の刊行を喜んだことと思います」と。 桔梗の濃き一茎を手折りけり 冬の蝶日向を飛んで失せにけり 今日はお客さまがお見えになった。 桑本螢生さん。 句集の打ち合わせのために横浜からいらして下さった。 俳誌「花鳥来」で深見けん二氏のもとで俳句を学ばれている方だ。 「深見先生と同じ会社につとめていましたので、その関係から先生が指導されていた職場句会をとおして俳句をはじめました」ということである。 この度は会社を定年退職されたのを機に句集を刊行されるということである。 ハンサムな紳士の到来にスタッフ一同おもわずみなうっとり…。 学生時代に仙川のとなりのつつじヶ丘に3年間住んでおられたということである。 「仙川にも来たことがありますが、ずいぶん変わってしまってあの頃のおもかげはありませんね」と驚いておられた桑本さん。
by fragie777
| 2011-01-13 19:23
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