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5月16日(日)
新宿の地下街を歩いていたら、面白いものに出会った。 題して「ガムテープアート」。 東京芸大の学生による作品であること。 友人でフランス文学者の高遠弘美さんから一冊の本をいただいた。 ロミ著『突飛なるものの歴史』高遠弘美訳。 (Histoire de L'INSOLITE par Romi) こ「の突飛なるものの歴史」と題するロミの本はすでに作品社よりおなじく高遠弘美さんの訳によって1993年に刊行されているが、このたびは「完全版」として平凡社より鈴木成一のブックデザインで刊行された。 「私たちの周囲のいたるところに実利主義という名の、あるいは手にあまる専制的な良識といいかえてもいい泥沼が広がっている。そこにあるのは、その日その日をどう送ろうかとか、いかに安楽を保つかとか、何を食べ何を飲むかというようなことがらばかりだ。ロミのこの書物は、そうした泥沼にどっぷり浸かりきることを拒んできた、現代の読者のすべてを魅了するだろう。 というフィリップ・スーポーの序文でこの一書ははじまる。この序文をよむだけでも、刺激的だ。つづけて何箇所かを抜粋すると、 私たちはみな幻想をいだいている。自分が明晰であり、完全に自覚的な存在で、自分は信用できると思っているのだ。その私たちのまわりには「突飛なるもの」がどこにでもあるのに、私たちはそれを見ようとしないし、見きわめようともしない。私たちの無知をあかすそうした証拠を見るよりは見ないほうを、耳にするよりは耳をふさぐほうを好むのである。 ロミが私たちに課すのは、私たち自身による新たな豊かさの発見であり、自らさまざまな立場に立つことであり、かつ探検者の態度と心を身につけることなのである。 私たちはもはや無関心を装ってはいられない。常軌を逸することも狂気にゆきつくこともなく、紋切り型の世界から脱出するよすがとなるのが、この書物の最大の美点だろう。 序文のほんの一部を抜いただけなのだが、わたしの胸に突き刺さってくる言葉がすでに三つもある。 「実利主義」「専制的良識」「紋切り型の世界」 まあ、言ってくれるじゃないの。おおむね、わたしなぞもこの辺のところでうろうろとしているのかもしれないな。 では、「突飛なるもの」とは、何か、っていうことになると、このロミによる豊富な図版を載せた大冊を読み進んでいくしかない。目次をひとわたり眺めてみたりするとなんとなく「突飛なるもの」が見えてくるようでもある。たとえば、「第2章 伝説上の動物誌」と題された項目をみると、「1、一角獣 2、セイレーン 3、ケンタロウス 4、バシリスク 5、ドラゴン」とある。まさに、「専制的良識」の世界に生きている人間の心には生息していないものたちばかりだ。わたしはこのあたりのことになると、その「専制的良識の泥沼」からは大きな一歩をふみだしているように思える。なぜかって言うとこれらの動物はある意味でわたしには現実以上に現実だ。一角獣やケンタロウスやセイレーンやドラゴンは私の小宇宙ではちゃんと生息している。それらについて思いをめぐらすことはある甘美さがつねに伴う。 だから、わたしにとってこれらは言ってみれば「突飛なるもの」ではないのだけれど。まっ、いいか。 巻末の訳者の高遠弘美さんの文章がいい。 ロミの著作を一言で要約するのはむつかしい。大体がカフェ・コンセールと自殺と娼館と大食いと革命時の人物とおならその他を同時に結ぶ糸などなかなか見つけられないというのが本当のところではなかろうか。 だが、そこにシュルレアリスム的精神と逸話(historiettes)重視、図版資料への偏愛(コレクター的情熱と言い換えてもいい)という補助線を引いて、中心に「アンソリット=日常を超えた突飛なもの」と「反画一主義」への強い志向というレンズを置けば、ロミというこのたぐい稀なる著述家の世界が見えてくる。もちろん周囲にはアイロニカルな思考法やユマニスム的観察眼、さらには愚かしい人間への侮蔑とない交ぜになった愛情といった衛星群が必要であることは言うまでもない。 このあとに「シュルレアリスム」についての高遠さんの「常識や良識にがんじがらめになった人間を解放することこそ、シュルレアリスムの隠れた目的ではなかったろうか(だからこそ本書でダリを称揚したロミは三十年後の『悪食大全』では、コマーシャリズムに堕したとしてダリを厳しく弾劾することになる」」という考えを披露し、ロミの一言ではおさまりきらない精神の自在さについて語っている。 このすさまじいまでの反権威的精神をもったロミのあっぱれな仕事を高遠さんは日本に紹介しつづけている人だ。ロミに魅了されたのだ。 わたしはその高遠さんの訳によるロミの著書をほとんどいただいている。 『突飛なるものの歴史』 ロミ著 1993年 作品社刊 『悪食大全』1 ロミ著 1995年作品社刊 『おなら大全』 ロミ&ジャン・フェクサス著 1997年 作品社刊 『乳房の神話学』 ロミ著 1997年 青土社刊 そして、この度の『突飛なるもの歴史 完全版』がこれである。 たまたま今日本屋で一冊の本を買った。 『澁澤龍彦 ドラコニア・ワールド』 生前澁澤龍彦がその身辺において偏愛していたものを写真とともに澁澤の文章で紹介していくという、わくわくするような一書だ。 これを読みながら、ふっとロミの『突飛なるものの歴史』のことが頭をよぎった。 ロミと澁澤のとの関係は……。 高遠さんの訳者あとがきで、澁澤がロミに大きく影響されていたことを知り、 ああ、やっぱりね! と、 おおいに得心したのだった。 そうそう、忘れてました! 昨日のクイズの正解は、 1 ラズベリーの花。 2 かまつかの花 3 たらようの花 今回も正解者はなし、でした。 ちょっと難しかったかな。
by fragie777
| 2010-05-16 23:31
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Comments(1)
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