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12月24日(木)
こうやって高い木を仰いで晴れ晴れとした気分になれるのは冬の特権だ。だから好き……。 新刊句集が一冊できあがる。 中田照美さんの句集『蒔絵』である。実はこの本づくりをすすめていく過程で、製本の高橋さんから電話が入った。 「この版下おかしいですよ。箔押しが裏になっちゃいます!」電話の向うであわてている。 このことでは、すでに印刷屋さんの山本さんからも電話が入っている。担当の愛さんは、落ち着いてその電話をうけ、 「それは間違いではないんです。フランス装の折り返しの裏側まで金箔押しをするのです」と余裕で答える。 「ひゃあ、そんなことは金色の豚をつくるよりもむずかしい!」などと高橋さんは叫んだわけではぜんぜんないのだが、「裏にまで箔押しとは……」と一瞬絶句したのだった。 正直、ふらんす堂でもこの意匠ははじめてである。しかし、「蒔絵」というゴージャスな句集名であり、著者の中田さんのお父さまはかつて蒔絵の塗り師であられたとのこと、俄然装丁にも気合いも入ろうというもの。 と、いうわけで、表にも裏側にもふんだんにしかし決して下品にはならない金箔押しの句集が出来上がった。 著者の中田さんも出来上がりを大変よろこんでくださったのだ。装丁は奥川はるみさん。 中田照美さんは、俳誌「蘭」(松浦加古主宰)の同人で、野澤節子の下で俳句をはじめられた方である。「蒔絵」という集名、そしてお父さまは塗り師であることから、必然、句集には蒔絵に関する作品が収録されている。 望の夜や蒔絵の兎波に飛び 夏の夜の樽に目ざめし生漆 薄紙につつむ朱の椀霜の夜 遠花火躾きびしき父を恋ひ お父さまのことだけでなく、お母さまのこともよく詠まれている。 姿見に母と映して春着かな 残る虫寝にゆく母が階のぼる もう母の映らぬ鏡葛ざくら そして、 母恋ふを夫には言はず桃の花 序文を主宰の松浦加古氏が寄せている。「読者の思いが絵巻物を開くようにつぎつぎに拡がっていくところに、照美さんの句の魅力がある」「日常を脱し、心身を別世界に遊ばせること、それは照美さんにとっての俳句であり、『蒔絵』に象徴される伝統芸術への没入であろう」と。 独楽の色あふれ出でけり止りけり お手玉の木の実入れれば山の音 母でなく妻でなく歌歌留多かな 「書名に『蒔絵』ともってまいりましたのは父の仕事によるところ大であります。塗り師として漆にかかわっていましたので、子供の頃目の当りにしていましたことがふとよみ返り命名いたしました。そしてそんな環境に育ったことが、美しきものへの憧憬、創作への意欲につながっているのではないかと、今にして思うばかりです。」と中田さんは「あとがき」に書く。句集をつらぬくひとつの美意識が長い年月をかけて著者のなかで醸成されたものであることが作品をとおして伝わってくる。子供のころに培われたものは細胞のすみずみにまで沁み渡っていて生涯消えることがないのかもしれない。 匂ふまで包丁研げり一葉忌 表から裏にまでまわって押した金箔押し。実際に手にとってほしい本だ。 今日の「増殖する歳時記」は、三宅やよいさんによって、坪内稔典句集『水のかたまり』より。 雪が来るコントラバスに君はなれ 三宅やよいさんの解説を読んで、(フーム、そういうことなのか……)と合点した。「やさしい言葉だけどしっかりした命令形が頼もしい。これは最高に素敵な求愛の言葉」と三宅さん。「今夜はクリスマスイブ、雪と求愛が一年で一番似合う夜が訪れる。」と締める。(こりゃもうギャッフーンだ…)誰がって、わたしがね。「雪」も「求愛」もご縁がないわ。どうぞ皆さま、クリスマスイブをお楽しみあそばせ。わたしはトボトボと家路を急ぎます…。 そして讀賣新聞は、長谷川櫂さんの「四季」で森賀まり句集『瞬く』の作品が取り上げられている。 枯木星彼方に一つここに一つ 「景色を詠んだだけのようでもあるが、『ここに一つ』というと、作者の心の中にも一つ小さな星がまたたいている」とある。 ああ、たしかに、「ここに一つ」がとても素敵だ。 森賀まりさんの心のなかにある一つの星、 きっとやさしい光をなげかけているのだろう。
by fragie777
| 2009-12-24 18:43
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