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8月25日(火)
法隆寺の五重の塔。 ここは、日本じゃない、異次元空間だってここに来るといつも思う。 風も光も空気もベツモノって感じてしまう。 新刊句集が出来上がっている。 渡辺善夫さんの句集『芭蕉の恋句』。変わった句集名であるけれど、句集である。渡辺善夫さんは、堀内薫・橋本美代子に俳句を習い、いまは俳誌「七曜」(橋本美代子主宰)の同人である。今回の句集は二冊目となり、「齢六〇を挟んでの前後」の平成13年から19年までのものを収録してある。句集名は「新涼の講義芭蕉の恋句より」からのこととあとがきにある。編集のありようも、なかなか凝っていて、章題のそれぞれが、「芭蕉を中心として巻いた連句の中の芭蕉の恋句から抽出している」とのことである。たとえば、「娘のこころ」というはじめの章題の場合、 赤鶏頭を庭の正面 惟然 定まらぬ娘のこゝろ取りしづめ 芭蕉 とページの裏側に表記されている。いったいどんな恋句があるのかとページを繰る楽しみがある。なんとなく意味深な趣を感じさせる句集である。装丁は間村俊一さん。タイトルにふさわしく華のある仕上がりとなった。収録作品も恋句が多いのかとドキドキとしてページを繰ると、その期待を見事に裏切るかのように、淡々と著者の日常が詠まれている。しかしよく読めば、この一集をしずかに貫くものがある。それは、俳句のあるいは文芸の先達へのはるかな思いなのだ。それを故人への恋ごころのようなとあえて言ってもいいのかもしれない。 落柿舎の端居は楽しこそばゆし 少年の草矢を弾く虚子の句碑 黄沙降る芭蕉と杜国如何な旅 霞みたり後鳥羽の詠める淀三川 夏落葉利休は詫びず腹切りし そして、著者もまた季節のなかで季節のこころを大切にする俳人なのである。 鳴きやみしあと春蝉と気付きたり 夕月へはばたくやうな河鹿笛 来てみればあとかたもなし奈良の雪 冬鏡己消しさるごと磨く 穢くて何かいきいき春の沼 「眼目 見る 良く見る 深く見る」「指針 自由な発想 純粋な思考 たくましい表現」と帯の裏側に書かれている。そして、「この標語らしきものは、師・堀内薫が生前、私たちに、俳句を作るための指標として掲げていたものだ。私がこれを完全に血肉化しているかは心許ないが、自分なりに咀嚼して愚直に俳句を作ってきたつもりではいる」とは著者の言葉である。 敗戦忌もすぎ、8月も終わろうとしている。いよいよ秋が本格的になる。 色なき風色なき被爆ドームなり 今日の「増殖する歳時記」は、山下由理子さんの句集『野の花』より。 抱きしめて浮輪の空気抜きにけり 土肥あき子さんの丹念な思いの鑑賞を読んでいると、なんだか悲しくなってきた。わたしにとって浮輪も水遊びも子供部屋も20世紀の日向で置いてきぼりをくっている。その光はもう21世紀のわたしの足もとにはとどかない。そしてわたしはそれらをもうきっと振り返ることはないだろう……。 なんちゃってね。 でも、きっと、 そう……。
by fragie777
| 2009-08-25 19:54
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